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第102話

「どうして、こんな提案を?」と東城は聞いた。 同意書には、これから行うことは自らの意思に基づいており、万が一の場合でも、警察組織に一切の責任は問わないと書かれている。 「お前が、こんなこと言い出すとは思わなかったよ」 竜崎は、ペンを取り出し、同意書の上に置いた。 「かなり非公式な話だが、この件で、菊池を逮捕することができたら、上層部は、広瀬の犯罪は帳消しにするつもりだ。過失傷害や偽装パスポート、出入国違反、数えればきりがなさそうだが、全て、菊池を逮捕するためのやむを得なかったことして処理できる可能性がある」 「広瀬くんが、復職できるんですか?」と佳代ちゃんが聞いた。 竜崎は、それには首を横に振った。「さすがに、そこまでは無理だ。起訴されない、かもしれない、くらいが限界だ」 「かもしれない、って不確かな」と宮田は言う。 しばらく沈黙が流れた。 広瀬は、同意書の文面を何度も読んだ。 その間にも竜崎は淡々と話をしている。「近藤理事を殺したのは堀口だが、あの事件について広瀬も重要参考人だってことは、ここにいる全員が知っていることだ。広瀬がこの家にいることを知っていて、報告もせずにいるというのは、警察組織に対するかなりな背任行為だということは、君たちは理解しているのか?」 「それは、俺たちへの脅しなんですか?」と宮田は息を飲む。 竜崎は黙っている。

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