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第103話

「お前、どうかしてるんじゃないか。そんな取引に応じるわけないだろ」と東城はきっぱりと竜崎に言った。「お前らしくもない。こんな汚い話をもってくるのか」 「汚い話とは思わない」と竜崎は言った。 「見損なったぞ」と東城は言った。「お前、これで何を得るんだ?」 「菊池を逮捕したい。彼は犯罪者だ。そのためには、広瀬の協力が必要だ。東城も福岡チームにいたのだから、わかるだろう。菊池のようなタイプの犯罪者は、こうでもしないと逮捕できない」 「そのためなら、どんな副作用が発生してもかまわないってことか」 そこに佳代ちゃんが口を挟んだ。「竜崎さんは、私たちが広瀬くんにここで会ったことをわざわざ話したりはしませんよね。自分のために来たんでもないですよね。東城さん、これは、取引なんかじゃなくて、竜崎さんが広瀬くんや東城さんのために考えてくれた機会なんですよ。そうですよね」 竜崎は、佳代ちゃんのその言葉に反論も同意もしなかった。 広瀬は、ペンに手を伸ばした。 「広瀬」と東城は言った。「お前、サインする気なのか?」 広瀬は、小さくうなずいた。 それから、同意書の下の欄にサインをした。東城はその手の動きを、紙に書かれた名前をみて信じられないという風情で首を横に振っていた。

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