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第104話

広瀬は、同意書を竜崎に渡した。「具体的には、どうするんですか?」 竜崎は、同意書の署名をさっと確認するとファイルにとじ、ブリーフケースにしまった。それから言った。「この家は菊池が接触するには適切な場所ではないから、都合のいい場所に移動してもらう。その後、光森経由で、君の居場所を菊池に伝える。そして、君からも、菊地に連絡できるようにもしよう」 竜崎は立ち上がった。 「準備を整えたらすぐに連絡する。それまでは、この家で待機していて欲しい。どこにも行かないように」 そう言いおいて、竜崎は挨拶もせずに家を去って行った。 竜崎が帰った後、リビングで、4人は座ったまま、しばらく黙り込んだ。 暗い重い空気の中で、宮田が、口火を切った。 「これから、どうするんですか?」 東城は、眉間にしわを寄せ、難しい顔をしている。「どうするもなにもな」と彼は投げやりな口調で言った。 宮田が言う。「竜崎さんの次の連絡で、広瀬がこの家からどこかに移動したら、警視庁のどこか偉い組織の監視下に置かれて、俺たちは近づくことはできなくなりますよね。移動先も知らされないだろうし、状況もわからないし」 「竜崎さん、準備するって言ってましたね」と佳代ちゃんは言った。「でも、さっきの同意書の中に、福岡警視の名前も、福岡チームの部署名もなかったですね」 「それって、何か関係あるの?」と宮田は佳代ちゃんに聞く。 「あると思う。今回の件ですけど、福岡チームは関与しているんでしょうか?」 東城は首を横に振った。「さあな。竜崎は、福岡さんの部下だが、他部署ともよく連携しているし、お偉方にも顔がきく。福岡さんは、最終的に自分の得になるなら、どんな動きも放置する主義だ。火の粉は絶対に自分にはかからないように、手柄は自分にって方針だから、竜崎が何するか知っていても、状況がはっきりするまでは知らん顔だろうな」 「広瀬くんの嫌疑を帳消しにするような力があるのは、福岡さんじゃない、別方面の、もっと偉い人ですよね。福岡さんが、そんな広瀬くんのためになるようなことを、わざわざ骨折ってしてくれるとは思えないし、それに、そこまでの力は福岡さんにはないでしょうし」と佳代ちゃんは言う。「今度の件に関与している偉い人が誰なのか、調べてみます。竜崎さんが一人で全部手配できるとは思えませんから、動いているのがどの部署の誰なのかも」 「広瀬がこの家からどこに移動するのかわかる?」と宮田は佳代ちゃんに聞いた。 「それも、探ってみるけど、難しいと思う」と佳代ちゃんは言った。「菊池を罠にはめようとしているのなら、竜崎さんはかなり慎重にことをすすめるでしょう。誰かの監視付きなんてことが見え見えの場所に、広瀬くんが移動するようなことはないと思うの」と彼女は言った。佳代ちゃんにとっても今回のことは難題なのだろう。彼女にしては珍しく硬い表情になっていた。

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