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第105話

家の中のひんやりとした重い空気の中で、東城が立ち上がり、言った。 「面倒なこと考えると疲れるな。腹も減ったし、飯でも食いに行くか」 広瀬は彼を見上げる。わざと明るくしているのでもないようだ。 「車でちょっと行くと、美味い店がいくつもある。今日は、地中海料理の店に行こうと思ってたんだ。遅い時間になっちゃったが、いいだろ?」と彼は佳代ちゃんと宮田に確認している。 二人はうなずいた。 「この辺り、魚料理美味しそうですね」と佳代ちゃんが言う。 「ああ。一回行ったらハマって、定期的に来たくなるらしい」と東城は言った。 東城が車で皆を連れてきた店は海辺にあった。 人気店のため混雑していたが、それほど待たずにテラス席に案内された。 テーブルにはキャンドルグラスが灯り暖かな光を放っている。車で来たのでアルコールは抜きで、と佳代ちゃんが最初に宣言したので、みんな我慢することにした。 東城が広瀬と佳代ちゃんにメニューを渡し、「好きなだけ頼んでいい、今日は俺のおごり」と言った。 今日だけじゃなくていつだって自分で払いたがる人なんだけど、と広瀬は心の中で呟きながら、言われた通りに食べたいものは全部頼んだ。 不思議なことだが、今日のようなことがあっても、ご飯はいっぱい食べられるのだ。おまけにどれも健康そうで美味しい。 広瀬がいつも通り食べるのに集中している間、他の三人は、とりとめのない話をしていた。 海にまつわる小話とか、評判の店に行ったらサービスが最悪だったこととか、エレベーターに閉じ込められてライブに行き損ねた話とか、面白おかしく話をし、みなで笑っていた。 特に宮田は熱心に佳代ちゃんを笑わせようと色々な話をしていた。佳代ちゃんは朗らかに笑い、しまいには笑いすぎて涙をハンカチで押さえていた。 よく笑って、よく食べて、レストランを出るころには、みんな元気になっていた。 別れ際に佳代ちゃんが「まずは、菊池を捕まえればいいんですよね。その方法を考えるのが一番簡単そう」と前向きに言った。「広瀬くんはこうして戻ってきたんだし、後は、悪者をやっつけるだけ」 そして、宮田と佳代ちゃんは、できる限りのことをすると言って、帰って行った。

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