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第108話

それから、リビングのソファーにどっかりと座り込み、彼らしくもなく出されたバーボンの水割りに口をつけた。 「それで、どういうことなのか説明をしてくれないか」と忍沼は東城に詰め寄った。「僕に黙っていたのには相応の理由があるんだろうね」 東城は、広瀬がホテルから逃げて自分のところに連絡をしてきた話と、竜崎がしてきた提案、光森と菊池の話を中心に忍沼に説明した。忍沼が本気で怒っているので、神妙な態度を示している。 一連の話が終わった後で忍沼が発した言葉が、「それで、こんなことにでもならなければ、僕は呼ばなかったってことだ」だった。「あきちゃんを見つけることができたのに、黙って隠れていて、いざ、問題が起こると連絡をとってくるわけだ。東城さん、呆れるを通り越してるよ。僕が力を貸すと、本気で思ってるのか?」と忍沼は言った。 当たり前だが、忍沼はずっと怒っている。 東城が頭を下げながら言った。 「すぐに連絡しなかったのは悪かった。申し訳ない」 忍沼は無言で冷たい目で東城をじっと見下している。謝罪を受け入れる気はないようだ。 東城はそんな忍沼の様子を気にはかけず、言葉を続けている。「連絡しなきゃならないとは思っていたんだが、この家に忍沼さんが来るのを、なんというか、避けたいというか」彼は言葉を濁しているが内容は本音だ。 「僕に来てほしくなかったってことだ」 東城は「まあ、そうだ。広瀬に会ったら、何かとうるさそうだし。連絡しないつもりはなかったんだが、つい先延ばしにしてた」と言い、また、謝罪の言葉を口にしている。 忍沼はしばらく黙ってしまった。眉間の皺を深くしたまま言った。 「東城さん、何でも正直に言って謝ればすむってもんじゃない」 「嘘ついたらついたで、気に食わないだろう」と東城は言った。「悪かった。申し訳ない。でも、連絡はするつもりだったんだ。広瀬が囮になって、菊池をおびき出すなんてことはたまたま今日出てきたただけだ。思ってもみなかった。こんなことにならなくても、連絡はしようと思っていた」 「慌てて連絡してきたのは、僕の力が必要だったからだろう」 東城はうなずいた。「早々に広瀬はこの家を移動して、俺は連絡がとれなくなる。菊池を日本に来させることに成功したら、竜崎は菊池を逮捕することを優先させるはずだ。バックアップするなんて言葉では言うが、実行できるかは疑問だ」 「僕だってあきちゃんの傍にべったりついていられない」 「忍沼さんが、物理的に広瀬の隣にいる必要はない。というか、いたら変だろ。竜崎や菊池にはわからないような連絡方法というか、広瀬を守るいいやり方を考えて欲しいんだ」 「いいやり方って?」 「わからないが、なにか、いい方法ないのか?」 「東城さん、僕に丸投げってこと?」 「まさか。俺も考えてる。だけど、複数で考えた方がいいだろ」 静かな時間が流れた。 東城は忍沼からの返事を無言で待っていた。何時間でも待ちそうな雰囲気だった。 しばらくして、忍沼は言った。 「東城さん、少し、席を外してくれないか。あきちゃんと二人で話をしたい」 「二人で?」 「今、そう言ったよね」 「俺が、いない方がいい話なのか?」 忍沼はきっぱりとうなずいた。「だから、席を外して欲しいんだ」

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