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第110話
「あきちゃんが東城さんをかばう気持ちはわかるよ。悪い人じゃないよね。見た目もいいし。金持ちだし。だけどね、ああいう人は、自分の思い通りになんでもしたがるんだよ。あきちゃんを恋人だと思ってるんだから、なおさらだ。自分の持ち物だと思ってる。僕にはわかるんだ。ああいうタイプの人」
「ええっと」
「この家から離れた方がいいと思う。今なら僕がいるから、逃げることができるよ。セキュリティも解除できるし。ちょっとキーの操作すれば、東城さんをこの家に閉じ込めることもできる」
「忍沼さん。東城さんを閉じ込めたりしないでください」とやっと広瀬は言った。「俺が東城さんから逃げる必要はないです」
「それは、そう思い込まされてるんじゃないのかな」
「違います」はっきり言わないと。忍沼はかなり押しつけがましい人間だ。
「どうだろうね。あきちゃん、素直でいい子だから、悪い人間に気づかないんだと思うよ」
素直でいい子って、忍沼にとって、自分は何歳のイメージなんだろう。
忍沼はまだ何か言っている。
何でもいいから悪口言いたいんだな、と広瀬は思うことにした。
最初から東城は忍沼を信用してないし、忍沼だって、自分をないがしろにする東城の悪口を言うのは当然の成り行きだろう。自分に害がない範囲で好きに言わせておいた方がよさそうだ。
忍沼は一通り言いたいことを述べた後で、顔を覗き込むようにして見てきた。
「ところで、本当に、菊池をおびき寄せて捕まえるつもりなの?東城さんや周りの人がそうして欲しいって言ってるから協力しようって思ってるんじゃないのかな?」
それにはきっぱりと答えた。「俺が菊池を逮捕したいんです」
「君が?」
「はい」と広瀬は言った。「菊池を今のまま自由にしてはおきたくない」
「仕返ししたいんだね」
「菊池は、犯罪者です。警察庁の研究所の研究内容や滝教授の記憶のデバイスの量産用の設計図を盗んで、今では自分のモノのようにビジネスにしようとしています」
忍沼はうなずいた。
そして、それ以上の説明を求めては来なかった。広瀬を愛おしそうに見つめてくる。
「あきちゃん、わかった。協力するよ。今度こそ君を守れるようにする」と忍沼は言った。「東城さんが口先で言うところのいい方法とやらは今は思いつかないし、彼の手伝いをするつもりはさらさらないけどね。君のためなら、なんでもしてあげる。僕の力だけじゃなくて、仲間の力も全部使う。だから、安心してていいよ」
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