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第114話

一旦疑念がわくと、菊池が、アキを抱いているシーンが容易に頭に浮かんできた。 アキは、底の見えない目をしていて無表情だ。口から出る言葉も少なく、何を考えているかわからない。 一緒にいると、ゆさぶって感情を引き出したくなる。乱暴をしてでも、あるいは、性的な関係を強要してでも、この完璧だが動かない美貌から媚態を引きずりだしてみたくなる。 アキを自分のものとしている菊池が、彼を抱こうとしない方がありえないことなのではないか。 そして、アキも自分を支配するタイプの菊池に依存し、会いたいと思って来ているのだろうか。 このまま、菊池とアキと引き合わせていいのか、と光森は思った。 本当は、アキに、逃げろ、君は今は自由だ、元に戻ってはダメだ、と言った方がいいのではないか。 だが、そうはしなかった。自分は、アキを菊池に引き渡し、失点を挽回するのだ。それから、アメリカに戻り、さっさと転職する。得体のしれない会社ともおさらばだ。 「会社の人に連絡するよ」 光森は、チャットツールでメッセージを入力した。 しばらくして、返事が入ってきた。菊池からだった。本人なのか?という確認だった。アキに見せる。 「どうする?証拠見せろって言ってきてるけど」 アキはじっと画面を見ていた。 「君の写真、撮影して送っても?」 「いいですよ」 アキはうなずいた。 光森は、目の前にいるアキの写真を撮影し、チャットツールで共有した。 会社からはどんどんメッセージが流れてくる。アキの他には誰もいないのか、どうやって光森の部屋に来ることができたのか。多くの質問が投げられる。 アキは無表情でそれらの質問を読んでいるが、形の良い唇は閉じたままで、特に答えようとはしない。光森も、答えられることはほとんどなかった。 曖昧な返事を続けていると、相手が苛立ってくるのがよくわかる。 「電話で、話をしたいって言ってるけど」と光森はアキに言い、「菊池さん、だよ」と言ってスマホを手渡した。

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