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第117話

昨日の深夜、竜崎から電話がありこのホテルに来るよう指示があったのだ。 その時間、広瀬は、ベッドの中で、深い眠りに入っていた。電話の音に素早く反応し、先に身体を起こしたのは東城だった。 彼は、夢うつつの中に漂っていた広瀬の肩を軽く揺さぶり、目を覚ますように言った。 「竜崎さんだ」と東城はスマホの画面を広瀬に示した。 東城が、ベッドサイドの橙色がかった優しい灯りをつけてくれる。 広瀬は、覚醒前のぼんやりした頭で電話をとった。竜崎の冷静な声が聞こえてくる。 広瀬は、竜崎からバックアップ体制が整ったこと、光森の居住地、自分の移動先のホテルについて説明を受けた。 今後も、電話以外、竜崎たちのチームと直接接触することはない。菊池が現れる場所が分かれば、待機し、時間をかけずに逮捕するということだった。指示を聞く間に、だんだん頭が起きてくる。最後に、広瀬は竜崎の指示を復唱し、全てを正確に把握した。 電話を終えた後、東城は静かな声で「もう一回眠れるか?」と聞いてきた。 広瀬は首を横に振った。すっかり眼が冴えてしまっている。竜崎からの電話で神経が高ぶっている。 これから白猫に会うと思うと色々なことが頭に浮かんでくる。 「何か、飲むか?」 そう言いながら彼は立ち上がった。床に無造作に脱いだイージーパンツに、下着もつけずに足を通し、上半身は裸のままで寝室を出て行った。 戻ってきたときには手にグラスを持っていた。 グラスは暖かくよい香りがした。グラスの湯気越しに見上げると、「バーボンにお湯と蜂蜜を入れてる」と説明してくれた。「酒飲んで身体の中から温めると落ち着くよ」 さましながらゆっくり口に含む。ほんのりとした甘みと香ばしさが口に広がった。 東城が広瀬の横に座り、頭を撫で、こめかみにキスをした。 飲み終わると、東城は広瀬を抱き寄せた。彼の体温がじわりと伝わって、中からも外からも温められていった。 彼が広瀬の身体をなでていく。背中を尻を太腿を大きな熱い手が行き来していくと、そこから身体が熱を帯びていく。 「そういえば、お前に、寝巻買ってなかったな」と彼は言った。「俺といるからはいらないと思ってたけど。俺がいないホテルで、裸で寝るなよ」 「ホテルで裸では寝ません。俺が着ていると必ず脱がす人がいるから、着なくなっただけです」 「お前、最初から威勢よく脱いでたような記憶があるんだけど」と東城は微かに笑った。「全裸で寝る習慣があるんだと思ってた」 「そんな習慣はありません。脱いでたのは、えっと、その時だけです」 「その時って、俺とセックスする時?」 広瀬は、答えなかった。わかってて聞いているんだろう。 「眠るときは、着て寝ていました。俺が先に一人で寝ているときも、東城さんが後からきて脱がしてたから、着なくなったんです」 「へえ」と東城は言った。手が肌に触れる。「いつも裸で寝てるから、着てると寝苦しそうだと思って脱がしてたんだ」そう言いながら、やわやわと尻をなでてくる。 広瀬は、その感触が気持ちよくなる。 「というのは嘘だ」と東城はつづけた。「お前の身体、触ってると気持ちいいんだよ」だから、余計なものは全部脱がして、全身で、味わいたくなるんだ、と彼は言った。 ぴったりと身体を重ねてきた。彼の身体に包み込まれていく。 少しは眠れそうだと広瀬は思った。 「明日から忙しくなるな。あんまり無茶をするなよ」と彼は言った。仕事に向かう時と同じ口調だった。 明け方に身支度をして広瀬は玄関に立った。 見送るために玄関にでてきた東城は、彼に小さな鞄を渡した。この前買った衣類や生活に必要なモノが入っている。 「ここは、今日で閉める」と東城は言った。 広瀬は彼の話にうなずいた。 「家に戻るよ」 広瀬は彼の目を見返した。彼もじっと自分を見ている。ゆるがないまっすぐな強い視線だ。 「お前が、次に帰ってくるのは、あの家だ」 東城は広瀬の顎に指をかけて、上向かせた。唇を合わせてくる。舌が緩やかに入ってきた。 絡みついて、口の中を歯列を喉をたどっていく。背中がしなるのを強い腕が支えてくる。 広瀬は、東城に身体を任せた。 長い時間、キスは続いた。 最後に、潤んでしまった目の端を彼が唇でぬぐい、東城は顔をはなした。

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