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第119話
菊池が合図をすると、大柄な男が広瀬を立ち上がらせようと手を伸ばしてきた。
黒い目は広瀬を見下し、少しでもおかしな動きをしたら捕えるつもりでいるようだった。
男の前に立つと、上着を脱がされ、ボディチェックをされる。
その間、菊池は部屋の中を見回し、広瀬の鞄を見つけた。ファスナーを開けて中身を全てベッドの上に出した。
「服を買ったんだね。お金はどうしたの?」と彼は言った。
東城に渡された当座のための金の入った財布も示される。
広瀬は返事をしなかった。菊池も追及はしてこない。
「必要なものは全部私が用意してあげるから、もう、この服も荷物もいらないね」と彼は言った。「すぐにこのホテルを出よう。車を用意している」
ここから出て、どこに行くつもりだろうか。
有無を言わせない様子で、菊池は広瀬の手をつかんだ。彼の手はひんやりとしていた。
「おいで」
後ろから大柄な男がぴったりとついてくる。周囲を警戒している視線だ。
菊池は、ホテルの部屋を出て、エレベーターとは反対方向に歩いていく。外階段の方だ。彼は広瀬の手をとったまま重い鉄の扉を開け、外階段をゆっくりと降りて行く。
広瀬は階段の下を見た。2階くらいまで降りて、この手を振りほどけば、後ろから来る男と多少もみ合いになったとしても、階段から飛び降りて逃げられそうだ。
だが、ここで逃げたら、菊池を逮捕するチャンスを逃すことになる。竜崎のチームが、広瀬がこのホテルを後にすることに気づいて、追ってくれるといいのだが。
だが、もし、そうでなくても、自分は、菊池にはりついて、彼を拘束する隙を見つけなければならない。
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