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第121話

気が付くと、そこは見知らぬ場所だった。部屋の中を見回す。 誰もいない。 自分はソファーに身体を預けていた。 部屋の反対側にカーテンに覆われた窓があった。 焦って立ち上がって窓の外を見ると、そこからは、明るい海岸線が見えた。 部屋の中は、ホテルの一室のように思える。広瀬が泊まっていたホテルよりも広くてましなホテルだ。 場所(ここ)はどこだろうか。そして、菊池はどこに行ったのだろう。 時計を見ると、日付が変わり、昼過ぎになっていた。 注射を打たれ、急に意識を失い、ずっとそのままだったのだ。目覚めた今は、身体はだるく、頭は重い。 ここまでの時間のことは全く分からない。車で長時間移動したのか、それともすぐにこの場所についたのかもわからない。 部屋の中を見回すが手がかりになりそうなものはなかった。テレビはおいてあるがつかない。ホテルのパンフレットのような類のものもない。 服は、着替えさせられていた。 黒っぽいトレーナーとスウェットズボンになっている。下着も変えられていた。 身体に違和感を感じ、トレーナーをめくりあげて、腹や胸を見てみる。ポツンと虫刺されのような赤い色が右胸に滲んでいた。 注射痕ではない。 昨夜まではなかった痕だ。誰かが、強く吸うか噛むかしてついた痕だった。 広瀬は、いそいでトレーナを脱いだ。洗面所に向かい、鏡で見てみる。 自分の身になにがあったのか、全く記憶がない。 裸にされて、自分の身体にキスマークをほどこされたのは確かだ。 気持ちの悪さを抑えて、下も全部脱ぎ全裸になり、ほかの痕や異常を確認した。 太腿にもキスマークはついていた。胸と太腿の二か所だ。後ろを振り返り背中や尻を見たが、わかる範囲ではこれ以外についてはいなかった。 おそるおそる、性器や後孔に指をはわせた。自分で触れても異変はわからない。何かあればわかるのだろうか。 無理やり性交させられたりしたら、わかるものだろうか。少なくとも痛みはない。 鏡の向こうの自分を凝視する。意識を失っている間に、何をされたのか。どうしても思い出せない。 首筋に注射痕があるのも確認した。どんな薬物を入れられたのだろう。 得体のしれない薬をうたれたと考えるだけで、ぞっとし、総毛立つ。気持ちの悪さも、頭痛もこの注射のせいだろうか。 薬物を投与され、意識を失った後、なにをされたのか、全くわからない。 最悪の想像が浮かんでくる。 レイプされて写真を撮られていたら、自白剤のようなもので、今回の作戦のことを全部話をしてしまっていたら。 なにもかも、取り返しがつかない。 手を見ると、絆創膏だけは変わらず貼ってあった。広瀬はそれをみて、ほっと息をついた。

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