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第122話

この絆創膏は、忍沼が広瀬に持ってきたものだった。 広瀬を守るものをと東城に頼まれ、それほど時間をかけずに作ってきたのだ。 忍沼は、リビングで、東城と広瀬を前にして、手のひらの上に乗るくらいの小さな透明なケースを取り出した。 そこには、大ぶりな絆創膏が1枚入っていた。 見たところ、どこのドラッグストアでも買える、傷を早く治すというタイプの絆創膏だった。 彼は、慎重な手でそれを取り出した。 「この絆創膏の裏に貼ってあるチップで位置情報をとったり、音声を録音してネット上に飛ばすことができるんだよ」 東城が疑わし気な声をだした。「こんな小さなものでか?」 「うん。今や何でも極小チップ化できるからね」と忍沼はうれしそうに自慢し始める。「でもね、これのすごい点は、位置情報や音声データなんかじゃないんだよ。そりゃあそれはそれですごいことなんだけど、これのすごい点はね、電池なんだ」 「でんち?」電池がなんだっていうんだ、という口調だが、忍沼は意に介さない。 「こういう機器の一番の課題は、常に電池だ。長時間動かそうとすると、電池は大きくなる。充電が必要な時には電源が必要になる。それじゃあ、極小チップで何作っても結局は大きな機器になっちゃうだろう」 「確かに」 「これはね、あきちゃんの血流や身体の微細な振動が電気になって稼働するんだ。あきちゃん自身が、発電機になっているんだよ」 忍沼が熱心に仕組みを説明している。 「へえ」と東城はおざなりにあいづちをうった。 「あのね、東城さん、こういうこと興味ないのはわかるけどね、これって、びっくりするくらいすごいことなんだよ」 「だろうな。わかるよ。わかるわかる。すごいなあ。天才的だ」と東城は言った。「それで、この機器が稼働できるのは何時間くらいなんだ?」 「永遠にだよ、といいたいところだけど。実際には、絆創膏が劣化しちゃうだろうから、それで剥がれるまでだ。水に強い絆創膏にしたんだけど、お風呂入るときとか気を付けて」と最後の言葉は広瀬に言った。 東城は忍沼に念押ししている。「位置情報で、広瀬がどこにいるのかリアルタイムにわかるんだな」 忍沼は深くうなずいた。

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