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第124話

知らないホテルの一室で、鏡に向かって自分を確かめていると、ドアがノックもされずにガチャリと開いた音がした。 広瀬は慌てて服を拾い上げた。着ようとしていると、菊池が洗面所に現れた。 「気が付いたんだね」 そして、広瀬の裸体をじっと見た。 「本当にきれいな身体だ。全てが、完璧で整っていて」 菊池が手を伸ばして広瀬に触れようとしてくる。指先が腕に触れただけで氷つきそうだ。 広瀬は菊池の手を振り払い、服を着た。 「ここは、どこですか?」 洗面所を出て、部屋に戻った。 菊池は、ソファーにこしかけて、広瀬を見上げてくる。 「君が出国するにはパスポートが必要だからね。しばらくここにいて、出来上がるのを待つ。君が入国したときのパスポートは、光森くんのおかげで、警察に押収されたままだ」 「偽造のパスポートを作っているということですか?」 「そうだよ」とあっさりと菊池は認めた。「それに、わたしたちが安全に渡航できる飛行機を手配する必要もあるしね」 菊池はそう言いながらポケットからスマホを取り出した。 「お腹すいていないかい?食べたいものがあれば、届けてもらうよう連絡するよ。日本を出たら、当分は、戻ってこない。好きな日本食を食べておいた方いいよ」 広瀬は首を横に振った。 「いりません」 「そう?でも、わたしは食事をするから、注文するね。一緒に食べよう。何も食べないと身体によくない」 彼は、電話をかけて、何点か食事を頼んでいた。

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