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第128話
その時、ドア付近で、ガチャリという音がした。
菊池も広瀬もその音に驚き、意識を部屋の中に急速に引き戻された。
菊池は自分がささいな物音に驚いたことに苦笑した。「食事が届いたのかな」
彼はそう言いながらゆっくりと広瀬を放し、立ち上がるとドアに近づいた。
ガチャガチャという音が続いた。デリバリーにしてはやけに乱暴な音だ。
菊池が何かに気づいて、ドアから一歩、二歩、後ずさる。
バタンというドアの開く大きな音がして、スーツ姿の男が数名入ってきた。
一人は竜崎だった。
突然の乱入に、菊池は、呆然として立ちすくんでいる。
竜崎の隣に立っている男が確認の鋭い声をあげた。
「菊池だな」
彼は書類を手に持っている。
「逮捕状がでている」
彼はそう言って書類に記載された罪状を読み上げた。
時刻を告げると共に、彼は菊池に手錠をかけた。
逮捕状を聞いている途中から菊池は元の落ち着きを取り戻していた。
「大袈裟なことだな。今言われた罪状の大半は証明できないはずだ」と彼は悪びれない声で言った。
部屋にはさらに複数人が踏み込んでくる。しっかりと準備を整えてきたようだった。
何人かで菊池を取り囲み、部屋を出て行った。残った者は、部屋の中を確認したり、別な部屋で菊池の仲間を捜索したりしているようだった。
広瀬は、その光景を見ながら、ソファーの上で動けなかった。菊池が去った後も、身体が拘束されているようだったのだ。
竜崎が近づいてきて広瀬の顔を覗き込んだ。
「大丈夫か?」
返事の声も出すことができそうにない。喉の奥に何かがつまってしまっているようだ。
どうしたというのだろうか。
広瀬の異常を察知した竜崎がすぐに言った。
「今、救急車を呼ぶ。しっかりしろよ」
広瀬は目を開けていられなくなった。
はげます竜崎の声が遠い。
それから、意識が途切れ、なくなっていった。
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