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第129話
どれくらい意識がなかったのだろうか。
気が付くと自分はベッドに横になっていて、ベッドサイドには忍沼が座っていた。
忍沼は、目を真っ赤にして自分を見ていた。
「あきちゃん」
目を開けた広瀬に、忍沼が話しかけてきた。涙声になっている。
「気が付いた?」
広瀬は、うなずいた。頭を動かすとグラグラする。どうやら普通の状態ではないらしい。
「ここは、東城さんのお母さんの医院だよ」と忍沼が説明してくれる。「あきちゃんは、菊池に薬を打たれたんだよ。その影響で、気を失ったんだ」
薬というのは、菊池が言っていた睡眠薬のことだろうか。ただの睡眠薬ではなかったのだろうか。
忍沼は、広瀬のベッドサイドに置かれたティッシュを数枚とり、目と鼻を拭っている。
「菊池があきちゃんに打った薬の成分は、あきちゃんの血液から、警察が分析してる。完全な結果は出てないよ。市朋グループでも検査したらしくって、東城さんのお母さんが、しばらく気分が悪いと思うって言ってる。でも、命に別状はないってことだよ」と忍沼は話した。
「ごめんね。僕が作った位置情報の仕組みに不具合があって、途中で君を見失っちゃったんだ。復旧に時間がかかって。その間に、菊池が君を連れてどこかに消えてしまった。位置がわかったときにはすごく遠いところにいて、竜崎さんに言って助け出すまでにも、かなり時間がかかっちゃったんだ」
忍沼はそう言って何度も謝ってくる。
「僕のシステムのせいで、あきちゃんを危険なところに放り出したままになってしまった」
広瀬は頭を横に振ろうとした。上手くできなかったが。
忍沼の技術がなければ、自分は今でも菊池の支配下にいて、アメリカに連れていかれてたかもしれないのだ。
「動いちゃだめだよ。薬のせいで三半規管が弱くなってる可能性があるって。動くとめまいや吐き気がするみたいだよ」と忍沼は言った。「でも、それも、しばらくしたら治るんだって」
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