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第133話
朝、広瀬が目が覚めると、部屋に東城の姿はなかった。
早々に仕事に行ったようだ。
朝日が部屋に入ってきていて明るくなっている。
広瀬は、ベッドの中で身体を動かした。不快なところはほとんどない。
半身を起こし、両手をうーんと伸ばしてみる。手を握ったり広げたりしてみた。自分が自分でなかったような昨日とは、うって変わってよくなっている。昨夜、東城の顔を見てから元気になったような気がする。
窓の外は明るい。今日は晴れのようだ。
朝食を食べ終えた時、スタッフから来客を告げられた。
いつも通りスーツをきちんと着こんだ整った風情の竜崎だった。きびきびとした動作で部屋に入ってくる。広瀬も思わず居住まいをただした。
彼は部屋の中を見回し、誰もいないことを確認し、広瀬の様子を見て軽くうなずいた。
「よくなっているみたいだな」
「はい」と広瀬は答えた。
竜崎は、ベッドサイドにある椅子に腰を下ろした。
彼は、硬い表情をしている。単なるお見舞いに来たということはもちろんない。
菊池の取り調べはどうなっているのだろうか。証拠固めは進んでいるのだろうか。自分が引き出した菊池の証言は有力な手掛かりになっているはずだ。
質問のために口を開く前に、竜崎は広瀬と菊池の会話のUSBメモリーを差し出した。広瀬が忍沼に託したものそのものだ。ベッドサイドの小さな机の上に置く。
「この音声は、忍沼と君以外、誰か聞いているのか?」
「いいえ」と広瀬は答えた。
「東城は?」
「まだ、です」
竜崎は、うなずいた。
「この音声があることは知っているのか?」
「それも、まだだと思います。忍沼さんが、東城さんに教えていなければ」
「そうか」と竜崎は言った。
「菊池の捜査に、」と広瀬が言おうとした時、
「これは返却する」と竜崎が言った。
広瀬は、竜崎の顔をみた。
「証拠としては採用しない」と竜崎ははっきりとした口調で言った。
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