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第134話
広瀬は驚いて何も言えなくなった。
しばらく時間がたつ中で、頭を巡らせ、なんとか言葉を探して言った。「菊池は、この音声データで犯罪を告白しています」
竜崎はうなずいた。「この程度の証言なら、取り調べでも得られるだろう」
「菊池は、取り調べでは口を割らないと思います」
菊池は、相手が、広瀬だからこそ話したのだ。自らの犯罪を。
竜崎は広瀬に同意した。「そうかもしれないな。だが、証拠として利用するには、この音声には不要な会話が多すぎる。君と菊池とのかなりプライベートな会話も含まれている。音声を編集して証拠とすることもできるが、全部を開示するような要請があったら、拒否はできない」
「全部開示してはいけないんですか?」と広瀬は言った。菊池があの会話の中で何を言ったとしても、それが何だと言うのだ。広瀬は、菊池の言うことを認めない。
「広瀬」と竜崎は言った。「この音声を利用しないことは決定事項だ。君がなんと言おうと、覆らない」と竜崎は言った。
「竜崎さんが決定したのですか?」
「正確には、僕と橋詰さんだ」
「橋詰さんが、ですか」竜崎の背後には橋詰がいたのか。
橋詰は広瀬の警察官僚だった父親の同僚であり親友で、今は相当に高いポジションについている。警視庁に勤めていた広瀬の後見人のような人間だ。
今回の件を竜崎が動かせたのは、橋詰がいたからだと言われると納得ができた。
「今回の捜査のチームで音声を聞いているのは、橋詰さんと僕だけだ」
広瀬は机の上のUSBメモリーを見つめた。
納得がいかない。橋詰に直談判する必要があるだろうか。だが、彼も頑固なところがある。広瀬が頼んでも聞かないかもしれない。広瀬を守るためだろうけれど、そんなものはいらないのだ。
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