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第140話

車は、高台にある敷地の裏門の前で停まった。家は裏門から続く坂道を登ったところにある。 見上げると木々に囲まれた中に、屋根が僅かに見えた。 東城と広瀬は車を降りた。東城はドアを開けた運転手に礼を言っていた。 二人で裏門を通り、樹木の道を抜けて庭にたどり着いた。そこは、緑と土の香りで包まれている。 夜空を見上げると、月が辺りを照らしていた。 木々が生い茂り、花が咲いている。家の主がいつ戻ってきてもいいようにと、行き届いた手入れがされていた。 東城は、口を横に結び、黙って広瀬の手をとると、庭をゆっくりと歩いた。 広瀬はひかれるままに、彼の痕をついていった。 玄関の灯りが二人を出迎える。 東城は鍵をあけ、ドアの取っ手をとると手前に引いた。重い扉が音もなく開く。 そのまま二人でドアをくぐった。 広い三和土で、東城が広瀬にむきあって言った。 「おかえり、広瀬」 広瀬はうなずいた。返事の言葉を探していたら、東城に強く抱きしめられた。 背中に腕が回り、肩に顔を埋めてくる。抱きしめられているのだけれど、体重は広瀬にかかってきていた。その重みに、広瀬は何も言えなくなってしまった。 東城が腕を解き、広瀬を解放してくれるまでかなり時間がかかった。だが、腕を解いたあとは、笑顔を見せた。 リビングまで進むと、広瀬は一旦ソファーに腰を下ろした。 東城は立ったままで、満足気に自分を見おろしている。 「遅い時間だけど、何か食べるか?」と東城に聞かれた。「それとも、風呂入って、淫らな行為をして寝る?」さっきの車中の発言を根に持っているのだろう。 腹はすいているが、ゆっくりもしたい。 「風呂に入ります」 広瀬はそう答えた。 「それから、軽く食べて、寝ます」そう言いながら立ち上がる。 「軽くって言うと、普通の一人前くらい?」とも聞いてきたので、それは無視することにした。

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