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第148話
「その薬の何が問題で、取り締まろうとしているんですか?」と話を聞いていた佳代ちゃんが質問した。
豊岡が説明する。「菊池たちは、この薬と歯に埋め込む機器をつかうと、記憶力が飛躍的に伸びるとともに埋もれていた記憶を蘇らせることができるという効果をうたっています。実際には、記憶を強化するだけではなく、記憶を作ることもできるようなんです」
「記憶を作るって?」佳代ちゃんが聞き返した。
「薬物を摂取した人に、まだ、仕組みが良くはわからないのですが、記憶を刷り込むんです。幼い頃におきた出来事とか、見たこととか、実際にはないことが、まるで本当の記憶と同じようになる」
「なんのために、そんなことを?」と佳代ちゃんが重ねて聞く。
そこで初めて、大男が説明を始めた。体形と同じで太い声だ。
「菊池の会社は、海外の国の出資を受けています。偽の記憶をもたせることができたら、何ができるのか。どう思いますか?例えば、警察関係の話でしたら、裁判や取り調べで、嘘の証言を本当のこととして言わせることができるでしょう。あなた方にはそれが嘘とはわからない。なぜなら、本人の記憶通り話しているのだから。もし、ありえないことが起こったと思い込ませることができたら、それは洗脳と同じです。摂取した本人は混乱し、精神状態がかなり不安定になると考えられています。アメリカでは他傷自傷の被害が出ているとの報告もあります。もし、それが本当ならば、夢の記憶力回復剤といった安易な謳い文句でこの国に入ってきてはいけない薬だと我々は考えています。しかし、まだ、この話が本当かどうかの確認ができていない」
豊岡が大男の話の後に説明を続けた。
「広瀬さんは、子どもの頃に、滝教授の実験に参加されていたと聞きました。この薬の開発には滝教授もかかわっていて、記憶の刷り込みが可能であることもよくご存知でした。子どもの頃に実験に参加したので、あなたは、薬の影響を受けやすいとも言われていました。」
広瀬は聞いた。「記憶のデバイスで思い出した記憶と、刷り込まれた記憶は違いがわかるのですか?」
豊岡は首をかしげた。「記憶というのは、あいまいで、まだよくわかっていないことも多いんです。ですから、広瀬さんがもし薬の影響で何かを思い出したとして、それが、本当のことなのか、作られたものなのかは、記憶だけではわからないです」
では、今までの自分の記憶はどちらなのだろうか。
作られたのか、本当なのか。幼い頃の両親との記憶、殺害された時の記憶、菊池に凌辱された時の記憶。
「記憶だけでは本当か作られたのかわからないってことは、なんだったら本当だとわかるんですか?」と佳代ちゃんが聞く。
「そうですね。わかることは難しい。他の人の証言や、当時の映像とか、日記などから証明するしかないですね」と豊岡は困ったように答えた。「記憶はあてにならないものなので」
佳代ちゃんが何かを質問しようとしたが、その言葉をさえぎるように大男が口を開いた。
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