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第150話

広瀬が口を開く前に、佳代ちゃんが言った。 「検査の件は、改めてお返事します」 「血液検査は、早い方がいいんですよ」と豊岡は困ったような顔をする。 大男が豊岡にかわりまた口を開いた。彼は広瀬を真っすぐに見る。威圧的な視線だ。 「広瀬さん、あなたは違法と思われる薬物を長期間摂取しています。警視庁での立場も微妙と聞いている。我々に協力された方が得策なのでは」 「どういう意味ですか?」と佳代ちゃんが聞いた。 大男は、ジロリと佳代ちゃんに目を向ける。 「我々に協力して欲しいということだ」 「協力しないと、どうなるんですか?」 「さあな」と大男は佳代ちゃんに答えた。「君に答える必要はないだろう」 そう言われて佳代ちゃんはあからさまにむっとした表情をしてみせる。「そうですか。じゃあ、広瀬くんがあなた方に協力する必要もないでしょう。広瀬くんに依頼をするのであれば、なにか、確かな見返りがないと」 「見返り」と驚いて聞き返したのは広瀬の方だった。 佳代ちゃんはこの人たちに何を要求しているのだろうか。 佳代ちゃんは広瀬の方を一瞬むき、顔をしかめてみせた。ここは黙っててちょうだい、ということなのだろうか。 「そちらにとって利益になるなら、相応のことをしてもらわなきゃ」佳代ちゃんはそう言った。 「では、条件について広瀬さんとだけ話をしたい。君は席を外してもらえないか」と大男は言った。彼女を出て行かせようと中腰に立ち上がる。すると、大きな身体がさらに大きく見える。 「今日は私も同席することで、そちらは同意されたはずです」口調も声も穏やかだが、佳代ちゃんはまっすぐ大男を見返している。 大男は完全に立ち上がり佳代ちゃんを見下している。「こちらの話を妨害するのであれば、それは同意の範囲には」 だが、その言葉が終わる前に、佳代ちゃんはすらりと立ち上がった。身長だけでいえば、立ち上がった佳代ちゃんは決して大きいほうではないので、大男を見上げる恰好になる。 彼女は言った。「今日は、ここまでにしましょう」冷たく平静なもの言いだ。 佳代ちゃんは広瀬にも立ち上がるよううながした。 大男は怒りをあらわにしていたが、それ以上なにかを言ってはこない。 豊岡もしぶしぶ席を立った。「せめて、連絡先、教えてもらえませんか?」と広瀬に言う。 佳代ちゃんがまた厳しく答える前に、「えーっと」と広瀬は言った。「今、携帯とか何も持ってないんです。すみません」これは本当のことだ。 豊岡と大男は疑わしそうな顔をしてこちらを見ているが、ないものはないのだ。 「検査の件は、こちらからご連絡します」と佳代ちゃんが言った。「イエスでもノーでも必ず連絡しますから、そちらからのご連絡は不要です」

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