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第153話
しばらくして、東城が浴室から出てきた。
片付けを終えて食事の支度をしようとしていた広瀬に言った。
「お前も風呂入ってきたら?」そして、手を伸ばして、少し濡れた広瀬の髪を指で巻いた。
「髪も服も雨で濡れてる」
言われて初めて自分も雨に濡れたことに気づいた。
東城を一人にしたくなくて、急いでシャワーを浴び、さっと身体を流して、湯船には短くつかっただけで出た。
キッチンに行くと、東城がロールキャベツを温めていた。今日のロールキャベツはコンソメ味だ。琥珀色のスープの中に綺麗な形のロールキャベツが並んでいる。いい香りが広がっていた。
キッチンに立っている東城は、いつもと同じ表情になっていた。
ロールキャベツを大きな深皿によそって、広瀬に渡してくる。
「で、佳代ちゃんは何の用事だったんだ?」と東城が聞いてきた。
広瀬はダイニングテーブルに料理を並べながら今日の話をした。電話がかかってきたところから、帰ってくるまでの全てを。
東城は、みるみる眉間にしわを寄せる。
「厚労省のやつら何を企んでるんだろうな。だいたい、光森を殴った本人なら、まずは出頭すべきなんじゃないのか」
「三森は勝手に転んだんですよ。あれは、事故です」自分は目撃者なので訂正する。
「事件か事故かは警察が決めんだよ」と東城が低い声で乱暴に言った。「誰が何を見て、なんといいはろうが、関係ない」
「そうだったんですか」ちょっとびっくりだ。映画に出てくる悪徳刑事みたいだ。
テーブルに食事の準備ができたので、向かい合って座る。
東城は、ロールキャベツを自分の皿にとり、ナイフでざっくり二つに切り分け、半分を一口で食べた。熱くないんだろうか。
「お前が検査に同意しなくてよかったよ」と東城は言った。「曖昧な返事してたら、今頃、連中の病院でどんな検査されてたかわかったもんじゃない」
口調はかなり怒っている。表情は普通になっていたが、やっぱり機嫌は悪いのだろう。
「検査は断ります」
「あたりまえだ。二度とお前に接触させるなよ。佳代ちゃんにもそう伝えておけよな」命令口調だった。
東城が言う通りにいくかはわからない。むこうはむこうでしつこそうだ。だが、この場では東城にはうなずいておいた。
今日は、好きに言わせておこう。ひどく心配をかけてしまったのだから、彼が、すねてわがままを言うのも仕方ない。
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