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第154話

気を取り直して、広瀬はロールキャベツを切り分け頬張った。 キャベツにも肉にも味がよくしみていて、噛むとじんわり口の中にスープが広がってくる。石田さんが腕によりをかけて作ってくれたのだ。温かさが身体を包み込む。 いろいろなことが次々におこって、悩みは尽きない。だけど、こうして美味しい食事をゆっくりと食べられて、味わうことができる。 東城はどうだろう、と思って彼の顔をみると、また、大口を開けてロールキャベツを食べている。 「東城さん」と広瀬は呼びかけた。 東城は顔をあげた。 険しい視線に対して、言葉が出てこなくなる。 黙っていると、東城が聞いてきた。 「なに?」 「えっと、このロールキャベツ美味しいですね」 東城は皿を見た。フォークでロールキャベツをつつく。それから、ナイフで切り、口に入れた。今度は、時間をかけて食べる。 「そうだな」と東城は言った。「ロールキャベツって、どうやって作るんだろうな。キャベツで肉を包もうとしたら、葉っぱが折れてバラバラになりそうだ」ただ心に思いついたことをなんとなく言っている。 「そうですね」 言われてみれば不思議だ。石田さんは上手に肉を巻いている。ロールキャベツ用の特別なキャベツなんだろうか。 ロールキャベツを切り分けてしげしげと眺める広瀬に、東城が話を戻してくる。 「厚労省の連中の話で、お前の記憶を菊池が作ったっていう裏付けが取れたな。それだけは今日お前が連中に会った収穫だったな」 「俺の両親の記憶も、嘘かもしれません」広瀬は自分の心のひっかかりを話す。 東城は言下に否定した。「それはないだろ。菊池が、お前と両親の生活を事細かに作れるわけない。特に、お前のお母さんの記憶は作れない。菊池は、お前のお父さんとは面識があったかもしれないけど、お母さんのことは知らないんだろ。会ってもいないはずだ。整合性のある記憶を作り出せるわけがない」 広瀬はうなずいた。東城が言う通りだといいと思った。 「お前が、これは本当自分の記憶だって思っているのが、本物なんだよ。記憶なんて元々そんなもんだろ。誰かから、自分の記憶と違ってる話をされたり、記憶違いを指摘されたら、相手のことの方を忘れっぽい奴だなって疑うほうが普通だ。自分が間違ってるって思わないもんだ」 「そうですか?」 「違うのか?俺はそうだけど」 「東城さんは、そうかもしれませんね」 「どういう意味だよ。まあ、いいけど」と東城は少し苦笑して言った。 その後、しばらく静かに食事をした。 いつもなら饒舌な東城が、今日は、時々物思いに沈んでいる。不機嫌というだけではないのだ。 食事が終わったときに、東城が広瀬の顔をまっすぐ見て、何かを言いかけた。 「広瀬、俺は」

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