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第158話
信号が赤になっている。東城はゆっくりとブレーキを踏んだ。車が停まると広瀬の顔を見る。彼はまっすぐ前を向いていた。頬は白い。
「菊池の件は、竜崎さんも詳しいはずだ。どうなっているのか確認しておくよ」
広瀬はうなずくが、すぐに首を横に振った。
「無理には聞かないでください。本当に機密事項のようでしたから、竜崎さんも話せないことがあると思います」
「そうだよな」と東城は同意した。
菊池が微罪、なんてことを、潔癖な竜崎が許すわけがない。だが、彼の意向ではどうしようもできないことが起こっているのだ。少し考えるとそのことがわかる。
そして、広瀬が自分以上に竜崎の立場を考えていることに気づいた。
東城は話を変えた。「お前の辞表は?」
「渡しました。後は橋詰さんが処理して下さるそうです」
「そうか」
広瀬は言った。「手続きが終われば、退職の手当ても、もらえるそうです」
「橋詰さんがそう言ったのか?」
「今日もらった退職関係の書類に書いてありました。他にも書類があって、後から送られてくるそうです」
信号が青になる。東城は前をむき車を走らせる。
広瀬は話を続けた。「橋詰さんに、お礼を言われました」
「お礼?何についての?」
「俺が、堀口を探し出したから、両親の殺人の主犯や背景がわかったことについてです。堀口の取り調べはまだ続いているそうです。そちらは菊池のように有耶無耶にはならない、させない、そうです。取り調べで、父が殺されたころの庁内や他の動きや背景もかなりわかってきたと言っていました」
「その背景というのは、きちんと裁判で公表されるのか?」
広瀬は首をかしげる。「どうでしょうか。公表することと、真実がわかることとは別でしょうから」
「お前には?教えてもらえるのか?」
「どうでしょうか。橋詰さんは教えてくれないかもしれません」
思わず聞いてしまった。「それで、お前は、納得できるのか?」
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