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第2話

「何をやってるんだ……僕は」  日が沈み、蝉の鳴き声だけが交差する薄暗い公園。そこの2つあるベンチの1つに、教士はそっと座った。  辺りは人気は無く、このベンチに座ってから誰も通り過ぎてはいない。  でもそれは、今日が県内で一番大きな花火大会が近くで行われるからで、そんな日にこんな発展場に来る人なんていない事にようやく気付いた。  そう思うと、心の中でホッとする自分がいた。 「やっぱり……僕には無理だ……」  もし、ここに教士の事を知る人が偶然通ったら……そうなる事を考えていなかったわけじゃないけれど、そうなっても良いとさえさっきまで思っていた。けれど、いざここに来て思い知らされるーーー自分にはそんな勇気は無い……と。 「帰ろう……」  花火なんか見ず、花火大会に向かう人とは反対の方向に進んで行こう。  それが、今までの、そして、これからの自分の人生そのものだ。 「ねぇ、おにーさん」  そう思って立ち上がろうとすると、正面に立った人物に声を掛けられた。  年齢は20代くらいだろうか。茶髪で左右にシルバーのピアスを空け、細身で長身の男がそこに立っていた。 「えっと……僕?」 「ハハッ。あんたしかここにいないっしょ」 「そ、そうですよね……」  教士は突然の事に驚き、また静かに座ってしまう。いや、逃げようとしたが、男が怖くて逃げられなかった。  男はそんな教士の心情なんか知らず、隣にドカッと座って来た。 「なぁ、あんた、ここがどんな場所か知ってる?」 「え……?」  その問いに、教士は何故かただ頷いてしまう。 「だよなー。ここに座ってるって事は否定しても説得力ねーもん」 「……だよね」  教士は男の言葉に苦笑いするしかなく、自分の馬鹿さに呆れてしまう。 「あんた、男好きなの?」 「え? き、君は?」  教士は質問された事に答えるのを忘れ、考えるよりも先にそう男に返していた。  その言葉に、男は更に笑っていた。 「俺? 俺は男に興味はねーよ」 「で、でも……」 「あぁ、なんでここにいるかって? 彼女が花火大会行きてーとか言って来たから近道で通っただけ」 「あ、そっ、そうなんだ……」  それもそうかと教士は思った。こんなイケメンがゲイで、彼女がいないわけがない。 「彼女…か……」  そう思うのに何故かガッカリしている自分がいるのが不思議だった。  自分がゲイである事もまだ分からないのに、声を掛けられた事に少しだけ喜びを感じていた。 「じゃ、早く行かないとだね。花火、始まるよ」  それは、今までスルーされる事が当たり前だったから、こんな風に話し掛けられる事も、そして、会話する事も無かった。だからこそ、そう思ってしまうのかもしれない。 「ん? あー、いいや」 「え……?」 「ホテル行こう」 「え? は、ッえ??」  男はそう言うと突然立ち上がり、教士の右手を掴んで無理矢理立たせた。そして、子供のように笑い、足早に歩き出して公園を抜けた。

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