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第3話
連れて行かれたのは近くにあったラブホテルだった。
教士は初めて入るラブホに戸惑い、人目を気にしながら男が決めた部屋へと入った。
「こういうとこ初?」
「え? あっ、うっうん。入った事ない……」
「へー、その年齢で?」
「……付き合った事とか無いし」
「ふーん」
「き、君は手慣れてるね。彼女と来たりするの?」
教士は大きなふかふかのベッドの端にちょこんっと座り、その隣に座って来た男にそう聞いた。
「んー、まぁ相手が来たいって言った時にだけ」
「へ、へー……大人だなー」
「まぁ、相手が年上ばっかだから金の心配ねーし。相手が行きたいって言えば何処にでも行くんだ、俺」
「そ、そうなんだ……」
自分よりも年下だろう目の前の男は、自分なんかよりもずっと大人で、今まで勉強しかして来なかった教士には刺激的な話しばかりだった。
「そ、そろそろ彼女の所行った方が良いんじゃない? もう出よう……」
だからこそ、早くここから出た方が良いと思えた。
彼女持ちの人間とここにずっといるのはやはり間違いだと思えて来たのだ。
「は? なんで出んの? 入ったばっかじゃん」
「だっ、だって君彼女との待ち合わせがあるからあそこ通ったんでしょ? なら、早く行かないと……んっ……ンンッ!?」
突然だ。本当に突然。顔が近付いて来たと思ったらまさかのキスをされた。
「ちょっ、ンッ……ンンンッ」
そして、そのままベッドに押し倒される教士。
「ちょっ、えっ? あの、なんで……」
「彼女なんてどうでも良いよ……」
男はそう言うと、きっちり襟元まで締めた教士のボタンを外し始めてきて、教士は慌ててその手を止めた。
「で、でも……好きなんでしょ?」
好きだから付き合う。好きだから抱く。それが当たり前だと思っている教士にとっては、男の行動には驚きしかなかった。
「好き? 別に好きじゃないけど」
「え……?」
「好きって言われたから付き合ってるだけ。そこにLOVEはねーよ」
男は平然とそう教士に告げて来た。その口調は躊躇いや躊躇なんか全く無くて、彼自身が本当にそう思っているから出た言葉なのだと、世間知らずな教士にでも分かった。
「それは相手に失礼だと思うよ……」
「失礼? それはどうかな」
「え……?」
「あっちは俺とセックスできる事に喜びを感じてるし、今の彼女だって、本命の男が仕事だから俺を呼んだだけで、その男と上手く行けば俺とはバイバイ。そんなもんだよ世の中って」
「そ、それって……」
なんて悲しい事だろうか。恋愛なんか今までした事がない教士にでさえ、男が言うそれがどれだけ悲しいのか分かる。
「君……本当の恋とかした事ないんだ」
恋い焦がれるーーーそんな言葉があるように、相手が好き過ぎて思い悩む気持ちが世の中にはある。それはまだ教士も味わった事は無いけれど、味わいたいとは常に思う。
「……本当の恋? ……そうだな。そう言われたらそうかもしんねー……」
男は教士にそう言われると、そっと手を伸ばして教士の頬を触り、唇に触れて来た。
その手は温かく、そして、優しくて……男の言葉とは裏腹だった。
「でも…あんたも同じだろ?」
男は、教士の気持ちを見透かしているかのようにそう言う。
でも、当たっているからこそ、教士はこの男の事を拒む事はできそうになかった。
「恋を知らない……そうだろ?」
「僕は……んっ……」
その言葉に返答する間も与えられず、教士は男に組み敷かれた。
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