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第2話
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簡単な惣菜で夕食を済ませ、午後十時を回った頃に、突然刑事が訪ねてきた。
どうやら昨夜、同じ階の二号室で事件があったらしい。
「昨夜の十一時頃はこちらにいましたか?」
これが地取りというやつか。俺は正直、胸の高鳴りを覚えた。どうやらそれは俺の不在証明を求めているのだ。なかなか出来ない体験だ。
「昨夜は仕事が遅かったから、駅に着いたのは十二時を回っていたと思います」
「お一人のご様子ですが、それを証明できる方はいますか?」
癇に障る言い方だ。どうせ予め世帯調査は済ませているだろうに。
「ええ、一人所帯ですから。でも土曜日は十一時過ぎまでは会社にいましたから、同僚に聞いてもらえればわかります。なんならパスモに記録された時間もお調べになりますか?」
斎藤と名乗った刑事は、ほんの一緒眉間のシワを深くしたかと思うと、すぐにそれを笑顔に変えた。
「いえ、わかりました。十分です」
何だか拍子抜けだ。もう少し回りくどく話しておけば、何か面白い反応が見られたかも知れないと、俺は後悔した。
「殺人事件ですか?」
「ええ、まあ」
俺は邪険な言い方をしたことを少し悔やんだ。彼等が立ち去れば、後に残されるのは俺一人なのだ。つまらない想像に絡め取られて怖い思いをしたいほど馬鹿ではない。
「犯人はまだ捕まっていないのですか?」
「ええ、それでこうしてお話を聞くために伺っているのですがね」
犯人は相当に残忍な奴に違いない。首を絞めたあとに犬に噛み付かせるなんて、尋常ではない。
俺は思わず胸が悪くなった。
刑事が帰ったあとに、俺は廊下に出てみた。やはり心の隅には不安がうずくまっているのだ。
廊下の奥に目をやる。その晩も、突き当たりの部屋からはいつもの犬の咆哮は聞こえなかった。少しは躾けができたのだろう。
俺は玄関に入り足元のサンダルを揃えると、普段は掛けないドアガードをしっかりとセットした。いつもならドアガードを掛け、扉と枠の間に段ボールの切れ端を挟んで、風通しを良くするくらいの使い方しかしない。だが今夜はその本来の役目を果たさせようとしているのだ。
(俺も所詮は人の子か)
やがて一日の出来事を逡巡する時間さえ奪うように、粘着質な睡魔が訪れた。 廊下を走る足音と、若い嬌声を微かに耳に残しながら。
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