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仲間たち

※3年生主将・堀先輩視点です。 「松田(まつだ)智裕(トモヒロ)が復帰する。」 その一報が監督から告げられたあと、主将(キャプテン)である俺は2年3年の数少ないメンバーを集めて話し合った。 「……正直どう思うか、聞かせてほしい。」 あの暴力事件のペナルティーとして半年以上、野球部は活動停止を余儀なくされた。 そしてその悪評のせいで、大半の者が退部。  今残っている2年、3年は合わせてもギリギリ試合に出られるかという人数。  当時の1年生、つまり今の2年生に至っては、清田(きよた)川瀬(かわせ)香山(こうやま)の3人しか残らなかった。 松田は悪くない。だが彼の存在が俺たちから居場所を奪った。だからこそ今のうちに遺恨は取り除いておくべきだと俺は判断した。 「堀先輩、俺、コンバートします。」 手を挙げたのは2年の清田恭介(キョウスケ)。昨年の夏まではキャッチャーのポジションだったが、松田が退部した夏以降は内野に転向(コンバート)していた。 「どういうことだ?」 「俺は松田とバッテリーを組めないならと内野手にコンバートしましたが、組めるなら話は別です。キャッチャーに戻ります。」 「おいおい清田ぁ、俺から正捕手の座を奪えんのか?」 今、2年3年で唯一の捕手の今中(いまなか)が笑いながら清田を挑発する。 だが清田の内野コンバートで1番腹を立てたのも今中だった。この言い方でも彼は清田を歓迎しているということだろう。 「は?今中先輩よりは頭いいんで、背番号2番は俺がもらいますよ。」 「おーふ、相変わらず性格わっる!」 清田の研究量や心理の突き方、一度紅白戦か何かで対峙した時に俺は恐怖を覚えた。しかしそれは味方にすれば心強いとの確信にもなった。 「俺は賛成ですよ。まだ1年も投球練習参加してないからブルペンのパシリが増えるし。」 香山は同学年の投手の中で、唯一松田と仲が良かった。他の同学年の投手はエースになった松田をやっかむようになり声すらかけていなかったのを俺はよく覚えている。 「それに桑原(くわはら)さん引退したら上級生の先発いなくなりますよ。俺と田山(たやま)先輩は基本抑えですし。」 「てゆーか、投手って1番人数必要なポジションなのに3人しかいないんだぜ堀ー。」 「そーそー。松田が戻ってくるか1年からさっさと引き上げるかしねーとマジで回んねぇから。」 投手チームは大歓迎ムードだった。多分この3人は松田の気持ちを1番汲み取れるのだろう。 「てゆーかさ、ここにいる奴らは堀とあのヤクザみてーな監督についていくこと、腹(くく)ってるから。誰も松田を責めねーよ。」 「4月に再開して辞めてった奴らもいるわけだし。」 「堀、ここにいる16人は、上を目指したいと思ってる。松田がいれば百人力だろ!」 次々とみんなは温かい言葉をくれる。 俺は、このチームに残れて良かったと心から思えた。あのことに関して恨みを残している奴は誰もいないと改めて分かった。 そして、松田を笑顔で迎えよう、そう決めた。 *** 「……えっと…またお世話になります。」 茶髪だった頭を丸めて挨拶をする松田がいた。うちの部は坊主は誰もいないので何だか新鮮だった。桑原なんかは腹を抱えて笑っていた。 「松田、おかえり。」 俺は松田の肩を叩いた。練習のユニフォームが少しぶかぶかになっているのがわかる。 「お前、痩せたろ。」 「まぁ…はい……筋肉も食欲も一気に落ちたので。」 「体重は?」 「68kgから69kgを行ったり来たり…。」 「ダメだな。あと2週間でプラス3キロ以上。」 「はい⁉︎」 「下半身もしっかり作らないと、完投するスタミナどころの話じゃない。」 「………堀先輩ってもっと優しかった気がするんですけど。」 「優しい奴が主将なんかになれるわけないだろう。お前だけランニング5周追加な。」 「勘弁してくださいよぉぉぉぉ!」 さぁ、最高の夏にしようじゃねーか。 「行くぞ四高!やるぞ四高!テッペン狙うぞ!」 うっしゃあー!

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