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ホシノくんとタクミくん
※星野 裕紀 視点です。
「よし、ここまでだ。お前ら2年だからって夏休みはダラダラすんなよー。」
はーい。
今日終業式が終わり、ひとまず明日から夏季休暇。俺の受け持つ2年5組の連中は昨日から夏休みモードに入ってる馬鹿もいる。
ま、俺も高校時代こんなもんだったな。
ダラダラと職員室に戻り、給湯室に入ると白衣を着た小さな人…養護教諭の石蕗 拓海 先生がいた。
「あ、星野先生、お疲れ様です。」
「お疲れ様です、石蕗先生。やっと夏休みですねー…ま、俺たちはカンケーないですけど。」
「あはは…大変ですよね。それに来週は…。」
「野球の県大会の決勝、進めばいいですね。」
「は、はい…えへへ…。」
はにかむ笑顔をする石蕗先生。
あー、昔から変わんねーな。拓海くん。
***
小学校4年か5年の時、近所に住む同級生・石蕗の家に弟が生まれた。
「なぁなぁ星野ぉ!見に行こうやー!」
「はぁ?石蕗んチやろ?絶対イヤや。」
「行こう行こう!だっていっくんかわえぇやん!」
石蕗成海 、小中高が同じで何度も同じクラスになって、話したりはするが気性が荒い女だったから正直面倒だった。だから幼馴染の柴原 の誘いにも乗り気にはなれなかった。
だが押しに押されて根負けし、俺は石蕗と柴原と一緒に病院に行った。オカンに出産祝いの包みを持たされて。
「おかーちゃん!拓海どこー?」
病室に入るなり石蕗はデッカい声を出す。するとベッドに座っていた石蕗のオカンが「やかましい!」と叱責する。
横にいたのは石蕗のばーちゃんと、石蕗の3コ下の弟の郁海 くん。
「こんにちは。」
「あら、星野くんと柴原くん、いらっしゃい。」
「おばちゃん、おめでとーな!」
「おばちゃん、おめでとう。これうちのオカンから。」
俺は言付かった物を渡した。おばちゃんは「ありがとうなぁ」とふわりと笑った。
石蕗のオカンってめっちゃ美人さんやったから、不覚にも俺はドキッとした。
「たっくみー♡今日はなぁ、お姉ちゃんの下僕連れてきたで。」
「誰が下僕やねん!」
「ホンマしばくぞ、石蕗。」
おばちゃんの寝るベッドの隣に小さいカゴみたいなベッドがあって、そこに赤ちゃんがいることがわかる。
俺と柴原はそっと近づいて、覗き込む。
正直言って、生後3日の赤子は「猿」だった。
こんなお猿さんが、おばちゃんや(不本意であるが)石蕗みたいな美人さん?男やからイケメン?兎に角、端正な顔立ちになるのかと疑問に思った。
それが俺と拓海くんとの初対面だった。
それからおばちゃんらと何度かすれ違ったりしてるが、拓海くんとちゃんと話したり接したりすることなく、俺は中学3年になった。
(不本意ながら)クラスが一緒だった石蕗が体調不良で欠席して、石蕗の宿題やプリントを持ってくように頼まれた。
「何で俺やねん…柴原に頼めや担任 が。」
俺はぶつくさ文句を言いながら、石蕗家のインターホンを鳴らした。
すると引き戸タイプの玄関から出てきたのは、ちょこんとお目目クリクリの男の子?だった。
「あー…えっと、石蕗成海おる?」
「なるみおねぇたん?おるよ。テレビのへやでゲームしとる。」
「ああ゛⁉︎」
あのクソ女 !体調不良ちゃうんか!
そんな怒りが湧き上がり、一気に怖い顔になったらしい俺を見るなり、その子供は怯えて扉に隠れた。
「こ、こわ……おっ、おっちゃ…ん……だれぇ?」
「誰がおっちゃんやねん!」
「ひっ!ひっぐ……こわいぃぃぃ!おねぇたぁぁぁぁぁん!」
扉は閉められ、バタバタと可愛らしい足音が遠ざかっていく。すると今度はデカい足音が近づいてきて、鬼の形相の寝癖爆発女 が出てきた。
「誰じゃ拓海泣かしたオッさんはあぁぁぁぁぁ!」
「俺がオッさんならお前はババアや!石蕗ぃ!」
「……なんや、下僕か。」
「誰が下僕や、くそ女が。病人は病人らしく寝とけアホ。」
「昼過ぎに治ったし。ナメとんのか。」
「それはこっちのセリフやアホが。」
俺と石蕗が玄関先で不毛なにらみ合いをしてると、後ろから怯え震えた小動物が両手の指を口元に当てながら泣いていた。
「おねーたん……おっちゃん、おねーたんのおともだちなん?」
「拓海ぃ♡不本意やけどおねーたんのお友達やから大丈夫やでー、挨拶しぃ。」
「あー……そのちっこいのあん時の赤ん坊か。」
思い出した。10個も違うと忘れるもんだった。
小動物の正体は、石蕗家の末っ子・拓海くん(当時5歳)だった。
あの猿が子役もビックリな可愛らしい生き物に変貌している。そして気性が荒いボスザルの石蕗がメロメロにキモい猫なで声を出して接している。それには寒気がした。
「こんにちは…えっと、つわぶきたくみ、です。」
「あ、ああ…星野いいます。拓海くん、さっきはごめんな。」
俺はさっき怖がらせたことを謝り、一歩玄関に入って拓海くんと目線を合わせて頭を撫でた。
すると拓海くんは、ほっぺを真っ赤にして目を細めて。
「ほしのおにーたん……えへへ。」
髪の毛も柔らかくて、やばい、いつまでも撫でていたい。
「おにーたん、くすぐったぁ…ふふ。」
拓海くんも気持ちよさそうにしてるから俺は無心で撫でてしまう。が。
「おい、いつまで触ってんねん。というか何触ってんねん。天使が穢れるわ。」
撫でてた手首をギリギリギリと掴まれた。なんだよこの怪力女が。
俺は最後に拓海くんをポンポンと撫でて、押し付けられたプリント類を石蕗に雑に渡す。
「ここまで持ってきてやったんやから感謝せぇ。」
「通り道やないか!」
「は?てめぇの為に10歩も道外してやったのに?」
「ケチくさい男はモテへんでー。明日萌香 に言ったるわー。」
「やめろや。」
また険悪な雰囲気になると、俺の脚にボスンと何かが抱きついてきた。
「おにーたん、おともだちとけんかはアカンよ。」
ぷるぷると震えながら上目遣いで訴える拓海くんに免じて、舌打ち一つで許してやることにした。
「じゃあな。」
「どーも。」
「おにーたん、おにーたん!」
俺が出て行こうとすると、俺の学ランの裾を小さな手が掴む。
「ぼくも、おともだちになってくれる?」
首をコテンとかしげて言うもんだから、俺は断らずに笑って「ええよ」と返した。そしてクシャっと頭を撫でると。
「えへへ……ぼく、おにーたんもすきぃ。」
そう嬉しそうに笑った。
これは将来美人さんになるなぁと、確信した。
***
俺はそのはにかむ人の頭をクシャっと撫でた。
「へ?ほ、星野先生⁉︎」
「……おにーたん…ね。」
「え?」
「あ、いや……まぁ…今度松田のこと“おにーたん”って呼んでみたらどうですか?」
誤魔化すように俺は彼の耳元でそんな提案をしてみた。するとボボボッと一気に赤面する。可愛い人だ。
「や、やめて下さい…そんなの……もう!」
「ハハハ、すいませんね。」
からかったことを謝ると、彼はふわりと笑った。
ほんと、変わらないよ、拓海くん。
(拓海さんリアルショタ話でした♡)
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