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第2話
合宿二日目の夜。
「おーみねセーンパイ、俺と1on1 しませんか?」
「やっても良いけど……勝つのは弓倉だろ」
歌うような明るい誘いも、即座に断られてしまった。
「センパイって結構負けず嫌いなんですね。あっ、それはスポーツマンとしてはいいことですが」
頷きながら近寄るが、大嶺は知らん顔のままだ。
「でもでも、実力は大嶺センパイの方が上でしょ? 試合ではいつもいつもセンパイが点取ってるんだし」
残念そうな弓倉に見向きもせず、大嶺はゴールに狙いを定める。
「俺が点を取れるのは、部員達が居てくれるからだよ」
シュッ、とボールを放つ。
「こうやって丁度良い位置に俺が居るとき、お前みたいな良いPGが、上手いパス回してくれるから」
バサッ、とボールがネットに入ると、大嶺は弓倉に微笑んだ。
「……ったく、本当にヤバイなぁ、あなたは」
そんな台詞と一緒に、屈んでボールを拾う大嶺の背中に弓倉の身体が被さった。
「なんでそんな素敵な表情 して、素晴らしい誉め言葉をくれるんですか」
背後から思いきり抱き締められ、大嶺は両手を床についてバランスを取る。
「俺はただ、チームメイトを信頼してる、って言いたいだけ……っていうか身体どけろよ。いきなり危ないだろ」
「いきなりでなけりゃ良いんですか? 俺にはいきなりあんなドキドキさせる言葉をくれておいて……」
拗ねたように応えながら身体を抱く腕に力を込める弓倉に。
「汗掻いたから、一旦外で涼みたい」
大嶺はもぞもぞと蠢めくと、同じく拗ねるように頼むから。弓倉もそっと腕の力を抜いた。
「さっきのお詫びです」
そうスポーツドリンクを差し出すと、大嶺はそれを黙って受け取り、一気に飲み干した。
体育館から零れる光が映る白い喉が動く。その綺麗な光景に、弓倉はじっと視線を注いでいた。
「なんでここは動きやすいのかな。特に夜になると」
上を向いて瞳を閉じたまま、ぼそりと尋ねると。
「人が居なくて静かだからでしょ。俺はまだ基礎練習しかしてないけど、センパイは去年もここで夏合宿したんですよね。それで気に入って、今年もまたここを選んだんですか?」
大嶺は頷いた。
「去年も夜に一人練習させてもらって。そのとき自分に合ったシュートの形が身に付いたんだ」
「ふーん。それで長距離シュート名人になったんだ」
「本気で褒めてるのか?」
「本気の本音ですよ。なんでお世辞言わないといけないんですか」
「…………」
黙り込んだ大嶺の顔を弓倉は覗き込んだ。
「もしかして、口説き落とすためだろう、とか思ってる?」
「なんだそれ……大体、お前は昨夜もさっきも、口説く前に行動に移してきただろ」
「さっき思わず抱き締めたのは、センパイが俺を口説いてきたからです」
そう言って後頭部を掴み、下から掬うようにキスをした。
弓倉から唇は離したが、まだ顔同士を近い距離のまま止めていると。
「弓倉はさ、なんで突然……」
大嶺はうっすらと瞳を開けて、虚ろな視線でぼんやりと問い掛ける。
「……俺に、キスなんか……してくるんだ?」
これまで訊かれなかった問いに、弓倉は笑って答える。
「あなたが綺麗で可愛くて魅力的だから。それで俺があなたを好きになったから」
一気に告げた現実味の無い回答に、真面目な主将からは「ふざけるな」なんて怒られるかと思ったが。大嶺はただ不思議そうに首を傾げている。
本当の気持ちを分かってくれていないのか?
「……好きなひとと夏の夜にふたりきりなら、バスケの練習だけじゃなく、俺はこんな事もしたくなるんです」
そう告げるとまた唇を重ねて。今度は舌で唇をこじ開けて、深いキスをねだる。
弓倉からのそんな強引な口づけに従うように、大嶺はゆっくりと身体の力を抜いた。
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