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第5話

 弓倉の言葉に操られるように、まずは長元が飯野に怒鳴りつけた事を詫びて。  そして飯野も大嶺と弓倉に、勝手な噂を広めてすまなかった、と頭を下げる。  すると他の部員達もふたりに向かって謝罪の言葉をぼそぼそと告げた。 「まぁ、合宿だし、こんな事もあるよなっ」  田畑の大雑把な許しの言葉と大らかな笑顔で会議は終わり、心身共に疲れ果てた部員達は解散した。 「お前なぁ……部員達の目の前でいきなり驚きの告白するなよ!」  そして主将と副主将のふたりきりになった体育館で、田畑は大嶺を叱りつけた。元々田畑は、真実を知っていたから。 「嫌だったんだよ。飯野が嘘吐きになるのも、そのせいで長元と喧嘩になるのも」  駄々をこねるように大嶺は応える。 「だけど弓倉が咄嗟に話作らなかったら、学校全体に噂ばら撒かれたかもしれないんだぞ?」 「別に構わない」  あっさりと答えた大嶺の頭を、ばしっ、と半ば本気で田畑は叩く。 「それはなんにも気にしない人間のお前だからだろ! ホモのホモによるホモ部、とか言われたら……それで部員達が辞めたり、新入部員が入って来なくなる、とかも少しは気にしろ!」  叩かれた頭を擦りながら大嶺は眉間に皺を寄せる。 「なんだそれ。しかし同性愛者が主将、って一般の部員達は嫌なのか。すまなかった」  深々と頭を下げた大嶺の姿を見て、ほうっ、と田畑は身体の力を抜くと、ぐしゃぐしゃと下げられた頭を撫でる。 「大丈夫だよ。お前と弓倉がしっかりしてれば、また元通りになる。あとは主将を嫌がって辞める部員なんか、元々いらねーよ」  その言葉に大嶺は頭を上げると、弱気な微笑みを向けた。 「ありがとう。それからさ、やっぱり主将は田畑だろ」 「それもねーよ。あんな堂々と愛の告白できる度胸なんて、俺には無いし」  皮肉交じりで拗ねる田畑に、大嶺は明るい笑顔を見せた。  ほのぼのとじゃれ合う主将と副主将の背後から、つかつかと足音が近付いてきて。その歩み寄ってきた人影に、いきなり大嶺は手首をがっしりと掴まれた。 「これから、俺と一緒に練習してくれませんか。あぁ……俺と大嶺センパイ、ふたりきりで練習させて下さい」  それはもちろん弓倉だった。大嶺にも田畑にも真面目な視線で訴える。田畑は「どうする?」といった視線を大嶺に向けた。 「別に構わない」  懇願にも命令にも聞こえた言葉をあっさりと承諾した大嶺に、泣きそうな表情になった弓倉を見て。 「じゃあ俺は休むから。ふたりとも、あんま無理すんなよー」  笑いながら弓倉と大嶺の背中を軽く叩いて、田畑はふたりの傍から去って行った。  大嶺は手首を掴まれたまま、無言で弓倉と夜の体育館へ向かった。    ふたりのキスシーンを噂されていたなんて全く知らなかった。  その理由は、弓倉は長元以外の部員とは挨拶位しか接しておらず。その長元は噂から友人を遠ざける性格ではない。  そして大好きな大嶺の一挙一動だけを気にしていた弓倉は、合宿場で部員達に広まっていた噂からの妙な雰囲気に気付かなかったんだ。 「センパイは……噂されてたの知ってたんですか?」  大嶺は首を横に振る。このひとは元々周囲の人間の変化を全く気にしないからな。 「本当かどうか、合宿三日目に田畑から訊かれた」 「なんて答えたんですか?」 「弓倉から告白されて、俺も承諾した、ってそのまま言った」  承諾って……しかし、だからさっき田畑は優しく大嶺とふたりきりにしてくれたのか。 「噂されてたから、俺との練習断ったんですか?」   大嶺は頷く。 「本当でも嘘にしておけ、って田畑に言われて。よく分からなかったけど、部員達が混乱するのは嫌だったから」  最後にはこのひと自身が部員達を混乱させたじゃないか……咄嗟の演技で対応したが、もちろん弓倉も大嶺の言葉でめちゃくちゃにされたひとりだった。  

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