94 / 144

第94話

「…それに、ここはタツたちに知られているから…居る訳にはいかないんだよ」 アキラは、そんなみずきの瞳から逃げるように視線をそらして言う。 「…アキラ」 タツたちから守りきれなかった自分… それを思うと何も言えない… 出て行って欲しくないけれど… 「……」 アキラは不意に立ち上がり奥の寝室へ消える。 「アキラ?」 何かとついて行こうとするが… アキラはすぐに戻ってきて… 「はい、本当は昨日…出ていくつもりだったから…」 そう手渡されたものは… 「なッアキラ、これは…」 現金十万円とクリスマスにプレゼントした指輪。 「…いい機会だから…別れよ、オレたち…」 静かに発せられた言葉… 「オレは、独りの方がいい…」 みずきにも誰にも迷惑かけたくない… こんな怪我…二度とさせたくないから… 「…独りに、させられる訳ないだろう…」 なんだかいつもより頼りなく小さく見えるアキラ… そっと右腕で抱き寄せるみずき。 「俺はアキラの傍にいたい…それで、アキラに愛してもらえるような人間になれるよう努力したい、昨日のような失態は…二度と見せないよう、アキラをちゃんと守れるように…」 「……」 また…しばらく沈黙するアキラ。 ぽつりと言葉を伝える。 「別に…守ってほしいなんて…思ってない…」 「アキラ…」 「少し、考えたいんだ…ひとりになって、お前のことも…これからのことも…」 視線を下げ、そう言葉を続ける。 「……」 「指輪も返す…その金は色々世話になったから…」 「受け取れない…俺は何も世話なんかしていない…指輪も、アキラが持っていてくれ…返されるのはツラいから…」 首を振り、アキラに精一杯言うが… 「なくすかも…それでも?」 そっと瞳を重ね、試すように聞くアキラ。

ともだちにシェアしよう!