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第105話
「夜間だけ仕事の時は日中時間があるから来てもいいか?」
頼むように聞くみずきだが…
「ダメ、次、丸一日休みなのは?」
あっさりと否定する。
「確か、一週間後だが…」
不納得な様子で答えるみずき。
「だったら丁度いいだろ、その固定装具、一週間くらいつけとけって言われたんだから、その日、診てもらえるように先生に頼んどくから…」
勝手に決めていく。
「けれど、俺は…」
なんとかとりつく島をつくろうとするが…
口下手なみずき、上手く言い返せない。
「言う通りにしろって、じゃないと…もう一生、触れてやらねーから」
突き放すように言う。
「っアキラ…」
冗談でも聞きたくない言葉…。
「わかった?」
言い詰まったみずきを急かすように聞く。
「…なら、電話は?」
短く頷きながら…
せめて声だけでもと思ったが…
「病院だからケータイ使えないからな…必要最低限、用事のある時だけ病院に直接かけて繋いでもらえよ」
私用ではかけるなということ…
「…アキラ」
自分を切り離そうとしているようにしか思えなくなるみずきだが…
それを確かめる勇気もない…。
聞けばもっと状況が悪化しかねないから…
はっきり聞くことも出来ず立ち尽くしていると、そこへ、コンコンとノックの音。
「はい」
すぐアキラが応える。
「失礼します。楠木アキラさんですね、点滴をしますので…」
ナースがひとり、出された栄養剤の点滴を持ってやってくる。
「…ここの血管で」
アキラは片手を出して、針を刺す場所を手首のあたりにとナースに言って…素直に点滴を受ける。
「お食事もお持ちしました…どうぞ」
健次が言っていた通り二人分の食事も運ばれる。
「すみません…」
食事をカートごと受取り、お礼を言うみずき…
看護師は出て行った…。
「片手で食えるよな?」
不意にそんな質問をしてくるアキラ。
「あ、あぁ…」
嘘はつけないので頷くみずきだが…
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