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第107話

今日は19時から仕事がある日… みずきは昨日も仕事を休んでいるので、さすがに今日は休めない。 「…そろそろ帰らないと仕事間に合わないだろ?帰りタクシー使えよ、はい、これ」 アキラがタクシー代にと二千円渡してくる。 「アキラから金は受け取らない…そう決めたから…それに、自分の足で帰るよ」 みずきは当然ながら断る。 「足でって、歩いて帰る気!?歩くとたぶん50分以上かかるぞ?」 アキラは、そう言われるとは思っていたので、金を無理矢理渡そうとはせず、いったん引いて、みずきの言葉に驚く… 「…走ればもっと早く帰れるから大丈夫、バイクがないときは駅まで走っていたし」 走る事が意外に好きなみずき。 「…すごいな、お前…」 「そ、そうか?」 アキラに褒められ嬉しくなる。 「でも、そんな肩で走るのはダメだろ、固定帯がズレるから安静にしないと…やっぱ馬鹿だなお前…」 そう、くすっと軽くからかうように微笑む。 「はは…」 アキラの笑顔に苦笑いするみずき… バカ、バカとアキラにはよく言われていた。 でも、今帰ったら…一週間はその言葉すら聞けない… そう思うと、馬鹿と言われたことが嬉しいような… 複雑な気持ちになる。 「だから、これ使ってタクシーで帰れよ…」 机の上に置いた金を指しながら言う。 「タクシー代くらい俺も持ってるから…」 みずきはそう言ってうけとらないつもりだったが… 「余計なことに金使わせたくないんだ…」 元を返せば、みずきが病院に来なくてはいけなくなったのは自分のせいだから… アキラの目は真剣で… 「…アキラ、わかった、でもこれは後で必ず返すから」 引き下がりそうにないアキラを見て、仕方なくいったん受け取るみずき。 「いいって、じゃな…」 渡せて満足して… ヒラッと軽く手を振る。 「アキラ、お前が…何を思って、何を考えているか…今は分からないけれど、これだけは言っておく…俺が怪我をしたのはアキラのせいじゃない、アキラも被害者なんだから…お前が責任を感じることはひとつもないんだ」 これだけは伝えたかったこと… 真剣に言い聞かす。

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