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第3話

とりあえず、いつもの通りパンを焼く。 寝かせておいた生地を冷蔵庫から引っぱりだして、成形してオーブンに突っ込んだ。 焼きたてのパンを出すのが、家庭内での俺の仕事。掃除とか洗濯とかは、基本的にお手伝いさんがやってくれてる。 でも悪い気がして、お手伝いさんが休みの日は俺が掃除や洗濯をやっている。 (ったく、家事も仕込まねぇとダメだな) 一緒に住んでわかったのだ、仕事人間の彼は、家事には不向きだったってことに。 多分あの別荘にいた時は、家事はほとんどハウスキーパー任せだったし、食事はシェフが作ってくれてたし、朝食に至っては温め直すだけだったから、彼にも出来たんだと思う。 トースト焼かせたら焦がす。自動掃除機のスイッチの場所すらわからない。洗濯機の使い方すら知らない。 そんな奴に家庭内のことは任せてられない。 「うん、膨らんできた」 オーブンの中を眺めながら、軽く伸びをする。今のうちに洗い物をしておいて、出勤の支度をしないと。俺の分と奴の分のワイシャツとスーツを出して、持ち物確認して、秘書と運転手に連絡して。もうすっかり、大富豪の女房だった。 頭の中でこれからの予定を巡らせ、とりあえず洗い物に取り掛かる。 スポンジと洗剤を手に取ったタイミングで、寝室のドアが開いた。

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