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「この花の名は、知らなかったよ」feat.Hotel Desire一人目の話
「この花、なんていうの?」
トワの端末の待ち受け画面に咲いている花の画面を、シズクが指さす。
「へ? 桜のことか。何だ、珍しいか?」
その問いに、少年はこくこくと頷く。
「うん。何て言えばいいんだろう……こういう控えめな色合いとかいいなぁって思うし。きっと本物を見たら、これよりずっと綺麗なんだろうなぁ……。この街には咲いていないし、いつか見に行きたいかも」
すっかり桜の虜になったのか、シズクはほぅとため息をつく。
「そうだ、な。いつか……見に行けたらいいな。ここからだいぶ離れた街なんだけれど、桜が沢山咲くいい場所があってな。お前さんにもいつか見せられたらいいと思ってる」
「……どっちにしろ、病気が治ったら。でしょ? そもそもこの街を出られるかも分からないし。はぁ……最高に不自由な生活だよね」
再びシズクはため息をつくが、今度はどこか重いため息だった。
生まれたときからこの街しか知らない彼と、物心ついた時から旅をしていて根無し草の自分。果たしてどちらが不幸せでどちらが幸せなのかという不毛な疑問が降ってきたが、トワはそれを全力で振り払った。幸せは、誰かが測る者なんかじゃないのだから。
「……いつか出られるさ。誰かが見初めてくれるか、それとも自力で出られるかは置いておいて。ま、今は画面で我慢しとけ」
不毛な疑問を振り払うように、トワはシズクの頭をわしゃわしゃと撫で回した。まんざらでもないように、シズクは苦笑する。
「わっ、や、やめてよ……」
二人で桜を、いつか見ることが出来るのだろうか。 (了)
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