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第2話

「大変言いにくいのだけど、もし、娘との結婚を考えているのならもう少し給料の良い職に就いてもらうことはできないだろうか?」  夏迫の脳裏にかつて結婚を誓い合った女性の両親に言われた苦い過去の記憶が一瞬広がる。すると、初日のナイトミュージアムを乗り切った達成感は一気に消えた。夏迫はとぼとぼと展示室を通り抜け、非常口から出ようとする。  時計を見ると、9時ももう30分が近く、夏迫以外にはもう誰もいない筈だった。  だが、展示室の天井にある窓から差し込む月の光に照らされて、1人の男がいるのが分かる。ワイシャツにアンダーベスト、パンツという、ややラフな服装、ではある。だが、その男は今日、夏迫が紹介していた美術品の元所有者。アメリカの富豪でもあったアーサー・ベル氏その人だった。 「あ、貴方は?」  本当はもう閉館時間が過ぎていることやそれ故、退館しなければならないこと等。夏迫が伝えなければならないことは沢山あった。だが、夏迫は驚いてしまい、それ以上は声が出ない。  暗がりではっきりとはしないが、月の光へ透き通るような髪に彫りの深い顔立ち。ワイシャツをやや着崩して着る彼は神秘的にさえ映る。  月並みではあるが、まるで、この世の者ではないようだった。 「あ、すみません。日本語で……Who are you? だったら、通じ、ますか?」  夏迫は戸惑いながらそんなずれたことを言うと、目の前の男に向けて声をかける。すると、男は夏迫の近くに寄ってきた。 「You’re a real looker」 夏迫は迫ってきた男に目を覗き込まれ、両手を握られそうになる。夏迫は混乱して、「What’s your name!」と疑問形で聞くべきところを感嘆符でもつけるように繰り返してしまう。 「What’s your name!」 「あぁ、誰だって聞かれてたんだっけ? 僕はアーサー。君があまりにセクシーだったからここから抜け出ちゃったんだ」  アーサーと名乗った青年はアーサー・ベル氏が18歳頃に撮ったという写真を壁から取り外す。アーサー・ベル氏の座るソファーやその隣のテーブルへと飾られた薔薇の花はそのままに。 アーサー・ベル青年はソファーの上から、写真の中から忽然と姿を消していた。 「じゃあ、貴方は……貴方は……」 「うん、僕はアーサー・ベルだよ。Kittyちゃん」

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