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第10話
「はぁ、はぁ……」
まるで、この世のものではない程、整い尽くした容姿にやや気怠げだが、儚げとも取れる出で立ちの彼。そんな彼はどこにもいなくて、夏迫の目の前で息を弾ませている。夕焼けでさらにその金色の髪が光る。
夏迫が展示室へ入り、彼が18歳の頃の写真を見ている時だった。
「アート……さん?」
ちなみに、アートはアーサー氏の愛称だった。別に、呼び捨てでも構わないとアーサー氏は言ったのだが、日本人らしくて良いかと言って、お互いに納得した呼び方だった。
「どうしたの? そんなに慌てて」
夏迫はアーサー氏に駆け寄る。言葉こそ冷静なものだが、かなり嬉しかった。
「1週間前は会えなかったから……ごめんね……怒ってない?」
映画のワンシーンと言えば、陳腐かも知れないが、夏迫がアーサー氏に駆け寄っていた筈なのに、いつの間にか、アーサー氏が夏迫に駆け寄って抱きしめていた。
彼と初めて出会った時、夏迫は手を握られそうになったぐらいで狼狽えたのに、嬉しくてたまらなかった。
「うん、怒ってない……でも……」
「でも?」
「I missed you」
日本語で告げるには子供じみていて、夏迫はたどたどしく英語で伝えた。「miss」には色んな意味があるからもしかしたら、間違えているかも知れない。
だが、その心配もいらなかった。
「Ah, my precious。あとぅし」
日が傾き始め、暗くなりかけてきた展示室。夏迫とアーサー氏以外には写真の中で、18歳の時のアーサー氏がソファーに掛けていた。
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