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第11話

2018年8月17日PM6:00。 「いらっしゃいませ」  夏迫の勤める博物館から一番近いホテルの最上階に鉄板焼きのレストラン。  まだ夜景が見えるような時間ではなく、時計を見ても、少し早めな時間だと夏迫は思った。ただ、そんな時間でも自分達以外のお客がいないのは…… 「ありがとう、今日も無理を言ってごめんね」  アーサー氏は人懐っこい笑顔で、シェフに詫びる。シェフ……それは顎のラインがすっきりとしたあのシェフだった。 「いえいえ、またいつでもご無理をおっしゃっていただけばと思います」  ご無理というのはこの貸し切り状態のことだろう。そう言えば、最初にこの店に来た時も人は疎らだったが、一番夜景が綺麗に見え、上手い肉が提供できる席だった、と夏迫は思い出す。  シェフはトックを脱ぐと、軽く会釈する。おそらく、夏迫と同じ年か、少し上かも知れない。ただ、年輪を重ねた男性という感じで、素敵な人物だと夏迫は自分の草臥れた様子をレジの傍にある鏡を見ると思った。 「もしかして、シェフみたいな方が好み?」  アーサー氏は余裕のある感じで言ってみせるが、その表情は若い。若い……というよりはKittyちゃんみたいだ。 「そんなことはないよ、You’re a real……real……」 「ふふ、looker?」 「You’re a real looker」 アーサー氏、いや、アーサーは優雅に口にしてみる。

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