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第29話

夏南side 「春!!あぁ…良かった…」 俺のことを心配そうにみる両親。 「あなた覚えてる?車に跳ねられちゃったのよ」 「春。どこか痛む?」 「俺は…夏南…」 「何言ってるの?春。そんな子元々存在しないわよ」 「え…?」 そっか…俺は存在しない人だったんだ… 面会時間が終わり二人は帰っていく。 「…しゅんちゃん…どこ?」 部屋からさ迷い出る。丁度帰宅するところだったのか医師と遭遇した 「夏南くん」 「せんせ…俺は夏南?春太?」 「春太くんは…亡くなった…」 「え?しゅんちゃんは?どこにいるの?」 霊安室に行くとそこには春太が横たわっていた。 「しゅんちゃん…しゅんちゃん…ごめんね…ごめん…俺が…いなくなれば良かったのに…」 「夏南くん…そんなこと言わないで…春太くん最後に言っていたよ。かなを守れて良かった…って…」 「そんなの…でも…俺の親は…俺なんて元々いなかったって…そう…言ってた…俺のこと春太だって思ってる…春太は…誰が引き取るの?ねぇ…先生」 「病院で火葬し病院で管理している場所へ埋葬されるよ…」 「やだ…俺の唯一の…家族なのに…先生…俺…」 「夏南くん…」 先生は俺達を取り上げてくれた人だ。だから俺たちの事ずっと知ってる…俺たちの仲も俺への回りの態度も… 結局俺は春太として過ごすこととなる。 母は夏南の存在そのものが無いと思い込みそれを黙って見ている父。 ある日父に呼ばれた 「何でお前が生き残った?お前が死ねば良かったのに…」 「ごめんなさい…」 「…夏南…」 久しぶりに呼ばれた自分の名前…恐怖でしかない 「すまない…」 「え…?」 初めて父の謝罪の言葉を聞いた… 「父さん…」 「ごめんな…夏南…守ってあげられなくて…ごめん…」 「ごめんなさい…春太じゃなく俺が…生き残ってごめんなさい…」 「春太はお前を助けた…弟思いのいい子だったな…春太はね最後に笑ってたよ?かなが無事なことがうれしいって…大好きな弟だからって…夏南…春太に会いに行こっか?」 「うん…」 父は母には内緒で春太を引き取り家族で良く行っていた海辺のお墓に埋葬していた。 母が寝入った夜中。父の運転する車に乗り込む。 こうして車に乗ったのはいつぶりだろう? うっすらと明るくなる空の下そこにポツンと一基のお墓がたっている。 春太の大好きだった花々が咲き乱れていた 「しゅんちゃん…」 そっと墓石に触れる… 「守ってくれてありがとう…」 その帰り道 「夏南…春太として振る舞うのは辛いだろ?」 「うん」 「勝手だが転校手続きを取った…新しい家も借りた…資金は援助する。月に一度は必ず会いに行く…だから…お前は夏南として生きろ…母さんが…元に戻るまで…お前は…夏南なんだから」

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