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第75話
彼女を見たその日は他で発散させる気も薄れ、ただぼんやり歩いていた
俺も女の子を好きになれたのか?
それならどれだけいいのだろうか?…
あの子の醸し出す雰囲気にすっかり絆され…
「…俺が…一目惚れ…?」
これまで体験したことのない複雑な気持ち…
「あの子に振り向いて欲しい…」
また次ばったり出会えたら…こんな飾り付けて本当の姿を隠した俺じゃなくいつもの俺で向き合いたい…
街でその日の相手を探すときは何時であろうとサングラスをかけ金色のウィッグを身につけて服装も派手目な格好をする。
そうすれば自分とは縁遠いチャラけた人に擬態できると思ってるから…
人によってはサングラスを外した姿を見せることもある。そうすればほとんどの確率でついてきてくれる。
普段はシンプルなモノトーンが好みだから知り合いに見付かってもバレはしないからそのくらいの変装が丁度いい
「あの子…名前すらわかんないや…でも…会いたいな…」
歩き疲れ道端の変な銅像に寄りかかって遠くを見ながら彼女のことを思った…
きっと今日はもう会えないだろう…また同じ時間同じ場所へ来てみよう…今度はいつも通りの自分で…そう思って帰路についたら…
「見つけた…あの子だ…」
運命?そんなことを柄にもなく思って足早に彼女を追いかけた
「あれー?さっきの子じゃん!!ねぇ。もうこれ運命だって!!」
うわ…最悪…って顔してる…その姿さえ可愛らしくて…思わず彼女の華奢な腕を掴んでしまった。離したくなくて…
「離してください…」
少し強めに握っている自覚はあったけど…どうやって…どうやれば君はついてきてくれる?仲良くなりたい…お願い…逃げないで…そう思いさらに強く握ってしまった…どうする?どう声かける?行かないで…お願い…
彼女をどうにか自分に近付けたくて引き摺るように彼女を自分の方へ引いた
何て…いえば怖がられない?逃げられない?どうすれば…どうすればいい?
「やめてください!!」
目に涙を溜め始めた彼女…ごめんね…ごめん…でも…離したくない…
「いいじゃん!」
我ながら最低なやつ…こんなことはじめてだからどうしていいかわかんないんだ…
「やめろ…よ…?」
ん?何か…声低くなった?あれ?不思議に思っていると後ろから彼女を掴む俺の腕が強く引かれ捻り上げられていた。完全に油断してたから逃れられない…痛いって…それ…
「いてっ…何だよ…」
「俺の彼女に何か用?」
彼女?そうなの?そうだよね?いないはずないよね…こんなに魅力的だもん…完全に基本的なこと忘れてた…そうだよ…人のものに手を出しちゃダメ…誰かが傷ついてしまうから…自分が一番わかってたはずなのに…
振り返り彼氏の顔を見る…
あ…これ…完全にアウトだ…男は俺の良く知る人物だったから。
芙蓉 葉月(ふよう はづき)さん…うちの会社の別部署にいるバイトの子。社長である俺の父親の右腕であり…副社長をしているあの人の息子…彼の配属されている部署は焦臭い噂が絶えないところでどうにか脱却しようと優秀な彼は送り込こまれている…
「ちっ…男連れかよ…くそがっ…」
うまい言葉が見つからなくて…吐き捨てるようにそう言い立ち去った
やばい…流石に芙蓉さんにばれるとまずい…彼とは年の離れた大切な友人でもあるから…絶対に裏切りたくない…
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