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第79話

「もしもし。用が終わりました。着替えてきます」 約一時間ほどたった頃美空くんから電話が入った。 家に帰って着替えたいのだろうけれどさっき美空くんの自宅へ行ったらもうあいつらが息を潜めてそこにいた。だから… 「いいよ。そのままで。明日は創立記念日で休みでしょ?」 「えぇ。休みです。」 「俺も休みだからゆっくり過ごそう。じゃあ迎えに行くから」 電話を切りカフェの近くのパーキングへ向かうとその側に美空くんが俯き待っていた。その姿が夕日に照らされ驚くほどきれいだった…息を整え声を掛ける 「お待たせ。乗って」 後部座席に乗ろうとする美空くんを制止して助手席に乗せた。ほんのわずかでもいい…触れさせて…夢を見させて… 家につくまでずっと手を握っていた。美空くんの手は男の割に小さくて…夏南みたい…ここで夏南を思い出すなんてどうかしてる… 雑談をしながら家につく。車を停めエレベーターで部屋の前へ行く。中に入ったら美空くんがきょろょろと驚いたように部屋を見渡していた。そして意を決したように口を開く 「綺麗にしてるんですね」 は?思わぬ問いかけに一瞬戸惑う 「以外?」 「はい」 申し訳なさそうにうつ向く姿…抱き締めたい衝動にかられるのを必死でこらえた 「だろうね」 「あのさ。俺は元々ゲイだからいいけど、あんたは違うでしょ?やり方わかる?俺は優しいのが好きなんだけどな…」 あぁ。残念。俺も君と同じなんだよね。君にはそう見えなかった?それなら成功だね…優しいの…か… 正直凄く抱きたい。 でも…君は…君の中には芙蓉さんがいるでしょ?だから…手は出さない。安心してね… 「優しいのねぇ」 「意見する立場でもないけど…」 「いいよ。やり方教えてよ。とりあえず飯作るわ。適当に寛いでて」 本当のことを言うと美空くんが帰るとか言い出しそうで偽りの言葉を並べる。 つけていたサングラスとウィッグを取り髪を整え美空くんに向き直ると美空くんが息を飲むのがわかった。 あぁ…この顔でよかった。すこしでも反応してくれたから。 「あ。そうだ。美空くん」 「はい」 「俺のこと名前で呼んで?」 君に呼ばれたい…小さな願い… 「…はい。璃人さん」 照れながら言う美空くん…もう本当に勘弁して欲しい… 「っ…可愛い…ありがと。美空くん」 夕飯の支度をしてテーブルに並べると子供みたいに目を輝かせる。それはそれは嬉しそうに… 「すごい…レストランみたい」 そんなこと言われるから照れてしまう… 「何それ」 「だってかなり美味しそうだし綺麗」 恥ずかしいのを隠すため少し乱暴な口調になってしまったが気づいてないみたい。 「そう?まぁ味気に入ってもらえるといいけれど」 箸をつけようとした美空くんが躊躇する…何か心配事? 「…」 あぁ…薬か何か入れられてるとでも思ったのかな? 「ははっ。大丈夫。変なもの入ってないよ。俺も同じもの食べるし。なんなら交換しようか?」 「いえ。いいです。いただきます」 不安そうにしながらも口に運ぶ…口に合うといいな…なんて思いながら見つめていたらふわりと笑う。可愛い…やっぱりこの子は可愛い… 「笑顔可愛いね」 「え?」 「俺は怖がらせてばっかりだったからそんな笑顔するなんて知らなかった。ごめんね。ずっと驚かせて」 ごめんね…強引なやり方で連れてきちゃって… 「いえ」 二人での食事は会話などはないけれど心地いい時間だった

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