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第92話
芙蓉さんが話終えると美空くんは俯きそして意を決したように顔をあげる
「ありがとうございました。何も知らずこんなにしてもらって」
深々と頭を下げる美空くん。そんな大したことはしてないのに…
「どっちにしてもいつかはやらないとならなかった。その丁度いいタイミングが美空くんたちのことだった。それだけだよ」
「璃人さん…俺…何かお礼を…」
俺と芙蓉さんを交互に見つめた美空くん。その時ふと芙蓉さんを見ると何だか複雑そうな顔をしてた。
まだ気が付いてないんだ…彼への気持ちがただの後輩へ向けるものだけじゃなく…彼のことをそれ以上に想ってるということに…本人は気が付いていないけどこの表情は嫉妬だから。
俺に向かって何かお礼をとあの可愛らしい顔で言ってる美空くんを目の当たりにしたのだから…きっと嫉妬心が溢れだしたのだろう。だったら…俺がすべきことは…
「お礼…ね…じゃあ…俺と今度二人でデートしよっか?あのときは行けなかったところに」
「あのとき?」
「うちに泊まって仲良くしてたときだよ。」
含みを持たせた言い方。これは意図的で芙蓉さんを揺さぶりたかったから
「ちょ!どういうことですか?仲良くって!!」
ほら…嫉妬してる…こうやってみると芙蓉さんもやっぱり可愛い。かなり出来る人だけど実際はそこら辺にいる健全な高校男子の一人でしかないんだから
「葉月…先輩?」
俺も初めて聞いたけど芙蓉さんの大きな声に美空くんも驚いている。だったらもっと…
「ん?何想像したの?葉月セ・ン・パ・イ。やーらし」
「ちょっと…成兼さん。何ですかその言い方」
「ふふっ…君もそんな顔するんだねぇ」
ほら…気付いて…後からではなく…今ここで…
「な…」
「先輩?」
首をかしげた美空くんをみて今度は照れる芙蓉さん。そんなになってるのに何故気付かない?
「…っ…そんな顔で見ないで…水無月」
「え?」
「可愛い…美空くん」
美空くんを突然抱き締めてみる。芙蓉さんはどう動く?
「璃人さん」
うっ…破壊力…まさか俺に身を預けて大人しく抱き締められるとは思ってなかった…
「水無月…」
その姿に芙蓉さんが戸惑いの色を浮かべた声で彼を呼ぶ
「はい」
「お前…成兼さんのこと好きなの?」
「好きですよ。とても優しくしてもらいました」
「…そっか…」
…だから…お互い何か拗れてるよ?
美空くんの好きと芙蓉さんの好きが
…ったく…世話のかかる子達…
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