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第93話
焦った顔をした芙蓉さんに笑みがこぼれる。かわいいなぁ…この子達のことになると俺はどこかに語彙力を落としてしまうらしい。可愛いしか出てこないから。
「どうしたんですか?」
芙蓉さんの気持ちに全く気づかない美空くんが不思議そうに首をかしげる
「何でもない。俺はまた俺が作った菓子食べてくれたらそれでいいや」
あ…誤魔化した…確かに芙蓉さんはお菓子作りが得意で俺も貰ったことがあるからわかるけどプロ並みの美味しさだ。甘いものが大好きな美空くんにそれをあげてたことも知ってる。でもここでそれ?
「え?それって俺だけ得してません?」
「食べてくれることがすごく嬉しいから。あ…そういえば…みくちゃん最近見てないな」
みくちゃん…ね。ほら。本能では感じ取ってる。みくと美空くんが同じ人物ってこと。でないと今ここで関係ない女の子の名前なんて出ないはずだから
「…そうなんですね。きっと忙しいんですね」
腕の中で小さく肩を揺らした美空くん。恐らくここでみくちゃんの名前が出たから戸惑っているのだろう。大丈夫だよ…そう想いを込め少し抱く力を強くするともっと戸惑ってる。あぁ…もう…
「璃人さん?」
「ん?相変わらず可愛いね」
すると芙蓉さんが動く。俺から美空くんを奪うようにして美空くんを引き寄せ腕の中に閉じ込めた
「先輩?」
「だめです。俺の可愛い後輩に変なことしないでください」
「えぇー…いいじゃん!」
「だめです。」
まだ気付かないの?芙蓉さんは意外に鈍感さんだね…仕方ない…
「芙蓉さん美空くんのこと好きなの?」
「え?」
「俺は好きだよ。もちろん恋愛感情ね。」
「え?え?」
「そゆことだから。邪魔しないでくれる?」
「だめです!」
「どうして?恋愛は自由でしょ?」
「だめ!水無月は俺のです」
よし…やっと…出た言葉…このままうまくいって…
「は?!先輩何を…」
「俺だって水無月のことそういう意味で好きです」
うん。それでいい。やっと認めてくれたね。本人が一番戸惑ってるけど…
「…」
二人揃って沈黙…吹き出してしまった…
「ふはっ…芙蓉さん今ごろ気づいたの?俺はあなたの気持ち気付いていたよ」
「え?…俺…何て…あ…あぁぁぁぁぁ!!」
新鮮な芙蓉さんの姿に笑いが止まらない…
「後は若者二人でどうぞ。俺は奥の部屋に行くから」
二人は俺にとってとても大切な人だから一緒に幸せになるんだよ。
奥の部屋に入り泣いた。もう…美空くんが手にはいることはない。二人の幸せを見守ることが俺の役目…
「やっとちゃんと失恋できる…」
不意に呼び出し音がなる。ディスプレイにはよく知った人の名前が映し出されていた
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