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第95話
「話はついたかい?」
「すいません」
「二人が幸せになるならそれでいい。でも美空くんを傷付けるようなことがあったら例え芙蓉さんでも許さないよ。覚悟しておいてね。奪いに行くから。ご飯どうする?食べてく?」
「いえ。今日はこれで。」
「うん。じゃね。幸せにね」
扉が閉まるのを確認して呟く
「ったく…世話の焼ける子達…」
二人もいつか夏南たちみたいになってくれるといいな。
そして…数日後。
「…久しぶりだな…」
見上げるのは今は琢磨と夏南の家になっているかつての琢磨の自宅…
「おや?久しぶり。璃人くん」
「お久しぶりです」
声をかけてきたのは琢磨の義父である国光さん。
「お元気でしたか?この度はおめでとうございます」
「ありがとう…」
嬉しそうに目を細める国光さんは間違いなく父の顔だった。
「琢磨が家庭を持つなんて…感慨深いよ。相手は男の子だけどとてもしっかりした子だね。君がいたからって琢磨が言ってた」
「いえ。二人は俺がいなくてもこうなる運命でした。ご存知ですか?琢磨がずっと片想いしてたこと。引く手数多だった彼を虜にした唯一の相手で…夏南は…とてもいい子ですよ…俺が保証します」
「ありがとう。璃人くんが言ってくれると心強いよ」
「行きましょうか」
「そうだな」
少しの緊張を気付かない振りをしてインターホンを押す
「はぁい!今開けます」
インターフォン越しに聞いたかつての恋人の声に緊張感が増す…あぁ…本当に…好きだったな…
「いらっしゃい。りーくん。お義父さんと一緒だったんだね」
「下でたまたま会って」
「そうなんだぁ。…りーくん…久しぶり…だね…ますますカッコよくなった」
「あははっ。ご無沙汰してたね。ありがとう」
「どうぞ」
夏南に促される…少しだけ背が高くなって色香が増した夏南…やっぱり…綺麗だな…
わかっていたことだけど当たり前のように駆けていく後ろ姿に少しだけ胸が痛んだ気がした
本当は…俺が隣にいたかもしれない…なんて…
「いらっしゃい。お義父さん。…璃人…」
琢磨はあの頃と変わらない…。二人が並んだ姿は恐ろしくお似合いだった。…やっぱり…俺じゃなかったな…あの場所は…
二人だから…成り立つ…
現実…
良かった…
あのとき縋らなくて良かった…
引き留めなくて良かった…
その後は夏南の父親もやって来て小さな小さなパーティーが始まった…
幸せそうな二人…
一人の俺…
あの頃の俺に会えるのならきっと俺は…
なんて叶いもしないことを思いながら…時間はあっという間に過ぎていった
「璃人。ありがとう。」
「二人の並んだ姿見るのあの頃は辛かった。でもね。その辛さを乗り越えさせてもらった。ある人に出会ってね…そして好きな人も出来たよ。まぁ失恋しちゃったけどね」
「へぇ。お前が失恋?似合わねぇ」
「お前が言うなよ。俺から夏南奪ったくせに」
「…ごめ…」
「ばぁか!謝ることなんて何もねぇだろ。あの頃の俺は未熟だったこと嫌でも今はわかるから。いつか俺もお前たちに紹介できる人現れる。そのときは祝ってくれよ」
「当たり前だろ」
「琢磨…ありがとう。」
「俺は何も…」
「俺といたときの夏南はあんな風に笑ったことなかった。本当の夏南を見つけ出したのはお前だから…なんか…眩しいよ」
「たーくん。りーくん」
「ん?」
「…やっぱり二人が並ぶと凄いね」
「は?」
「纏うオーラすごい」
「なにそれ。」
「懐かしいね…こうして三人並ぶの…ねぇ。りーくん」
「ん?」
「いい恋したでしょ?」
「まぁね。」
「ふふっ…そんな顔してる」
「まぁ。既に失恋しちゃったけどね」
「それも糧になるんでしょ?」
「そうだろうね。でもこうなれたのって夏南のお陰かもね。気持ちを隠すことなく告げることはお前に教わったから…ありがとう。二人の姿見れて良かった。さぁて…俺はぼちぼち帰るね。明日も仕事だから」
「うん」
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