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第102話

今日初めて会った俺に涙を流しながら話す姿に胸がとても傷んだ…こんなに彼のことを思っている…本当に彼はもう他にいる?…ただの勘違いだったら?… 「ちゃんと話した?」 「話せなくて…怖くて…わかってるんです…茜がよそよそしくなったこと…きっと茜は優しいから…情で一緒にいてくれるんだって…茜はモテます。俺なんか沢山いる内の1人でしかないはずなんです…だから…離してあげないと…」 「ねぇ。さなえくん」 「はい」 「本当にそうなのかな?俺はそんなんじゃないと思うよ。そんなんだったらこんなに長く一緒にいないんじゃないかな…俺は茜くんに会ったこともないしハッキリとは言えない。本当にただの思い過ごしだったら君は…」 「茜は優しいから…」 「ちゃんと話してみな。それからでしょ?これきっかけで話せることもあるかもしれない。君の思いを込めて作ってごらん?最悪なこと起きる前にやめてしまわない方がいいよ。絶対に後悔するから」 あの頃の俺が夏南を手放したとき切に思ったこと…何もできず…ただいい人になろうと…理想の人のままでいたいと…その変なプライドであれだけ後悔した…今はもう和解してそれこそ友人として相談役としてこうして穏やかな気持ちで側にいられるけれどこうなるまでに長い時間を要した。きっと納得がいかなくてずるずるしてしまったせいだと思う。 さなえくんと茜くん…若い二人がそうなってしまわないように…結果はどうなるのかわからない…でも何も話さないままで離れていいわけない… 一生懸命に作業に没頭するさなえくんの横顔を見つめて…俺もこれだけ愛されてみたいと…希望を抱いた…ねぇ…さなえくん…もしも…うまくいかなかったら…俺のもとにきてくれないかな…俺もそうして一途に…愛してもらえないかな…そんな自分の感情に気が付かない振りをして…そっと視線をはずした。 また…好きになってはいけない人に俺は心を奪われてしまった…己が滑稽で…嘲笑した…

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