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第103話

そっと部屋を出て持ち帰っていた円山の仕事にとりかかる。さっきの思いが勘違いだと思いたくて…ひたすら仕事に専念した そしていい頃合いになったので再びさなえくんの元へ戻る。 ちょうど出来上がったのかここにきて初めての満面の笑みを浮かべていた… その美しさに見惚れて…心底…この子が欲しいと思ってしまう…ねぇ…俺じゃダメ?… …ダメだダメだそんなの…わかってるのに思いは止められなくて… あぁ…好きだ…この子のこの笑顔を守ってあげたいな…なんて…夢物語を描きながら目を伏せた… 「できた?」 さっきの気持ちに気が付かない振りでいつもの笑顔の仮面を被る… 「はい。できました」 「元気…出た?」 「はい。話を聞いてくださってありがとうございました」 また茜くんのことを思っているのだろう…少し目を潤ませてこちらを見つめる。色素の薄い瞳の色に釘付けにされて動けないでいたら… 「ちょっと!!どういうこと?!璃人さん!!さなえくん泣かせたの!?何したの!?どういうことなの!?信じられない!!」 かつて好きだった美空くんに叱られる… 泣かせたのは俺で間違いないから何も言えなくて…口を閉ざしていると… 「違いますよ!美空さん。璃人さんは話を聞いてくれた。それだけですよ」 さなえくんが助け船を出してくれた… 「ほんと?何もされてない?」 本当に心配そうに自分が苦しいかのように眉間にシワを寄せる美空くんの姿に懐かしさを覚えて… 「はい」 このままだと二人の透明な心に溺れてしまいそうで… 「もう…美空くん酷いなぁ…仮にも俺恩人なのに」 何でもなかったように軽口を叩く 「恩人…?」 「昔色々あってね」 「そうなんですね」 美空くんはまだ心配そうにしていたけれど取り敢えずは納得してくれて二人で並んで笑顔でここを後にした… 「俺…本当に…バカだな…」 叶わない思い…好きになれた人はまた他の人を強く思ってる… 「…俺…一途に愛されたいんだな…子供みたい…」 誰にも聞かれることもなく消えていく自分の言葉たち… ねぇ…俺は本当に愛されるときは来る?俺だけを愛してくれる人に…出会える?

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