121 / 133
第121話
瑪瑙side
りとさんとお付き合いをはじめてそして同棲を始めた。
いつも隣にりとさんがいてくれることがこんな風に現実になるなんて思ってなかった。
りとさんと初めてあったのはまだりとさんが高校生。
凄く整った容姿で驚いたことを今でも覚えてる。
何でも出来てしまうからきっとずっと我慢して来たのだろうと言うことが話してるうちに凄くわかって…
あのときは別れたばかりの彼を思い、涙してたっけ…あの涙できっともう俺は捕らわれてしまっていたのかもしれない。
大人っぽいりとさんの子供らしい涙…きっと誰にも見せられなかったりとさんの本当の姿…
あのときは俺も俺で豪さんを引き摺ってたから沸き上がった仄かな思いに気付かない振りをした。
そうして一夏一緒に過ごして…
そのままフランスへ向かって…
もう二度と会うことがないだろうとふと目を閉じ浮かんだ顔がりとさんで苦笑して…
もう豪さんのことよりりとさんを思い出してしまう自分にあきれて…
向こうにつくと色々な仕打ちが待ち受けてて…
苦しくて辛いときこそ思い浮かぶのがりとさんで…
今さらになってあのときもっと素直になればよかったって何度も何度も後悔して…
気になって気になって仕方なくて…
りとさんはきっととても素敵な人だから新しい人がいるだろうって思ってたのにそんな話は誰からも聞こえてこなくて…
でも…性に奔放になってしまったと聞いたときはすぐに隣に行って話を聞いて慰めてあげたくて…でも出来なくて…あのりとさんがそんな易々とそんな人に成る訳ないって確信してて…
何も出来ない自分がもどかしくて…
そうしてしばらくりとさんに好きな人ができて…
でもお付き合いまでは至らなかったって聞いてすごく不謹慎だけど安堵したりして…
その人と出会ってりとさんは荒れた生活止めたって聞いて…
ほっと胸を撫で下ろして…
そんな日々を送る中でもう気付かない振りはやめて必死で修行して
やっと認めてもらえたらりとさんに会いたくて会いたくて堪らなくて飛行機に飛び乗って…
駅の近くでりとさんを見つけたときはぎゅーっと胸を鷲掴みにされたほど苦しくて…胸が高鳴って…
思わず声をかけて…でも…緊張しちゃってあまり話せなくて変な風になって…
気持ちの準備をするため足早に立ち去って予約入れてたりとさんの工房の住所を頼りに早めに向かって…もちろんまだりとさんは居なくて
当たり前かとぼーっと佇んでるとりとさんが驚いたように固まって…
そんな顔もかわいいな…ってニヤけそうになるのを必死に圧し殺して…
そして思いが通じて…体まで繋げられて…
「ふふ…嬉しいな…」
りとさんの隣にならんでもおかしくないようお店も出して軌道に乗って…
早くりとさんに自慢のパートナーって思って欲しくてすごく苦手だし嫌だけど色んな雑誌とかの取材もうけて…
でも…最近りとさんがおかしい…すごく…すごく…不安そうで…苦しそうで…怖いようで…
前よりおれを抱く回数が増えて…その度…何度も何度も俺の名前を呼んで…それは…もう…迷子のような表情…
「俺が思うのはいつだってりとさんだけなのにな…」
誰に聞かれるでもない自分の呟き…
店はランチの時間と夜はラストオーダーは20時半にしてる。
本当はもっと長くした方がいいんだろうけれど…りとさんとの時間はこれ以上は減らしたくないから…
そんな時間なのにありがたくもお客さんは来てくれる。
「今日はもう閉めようかな…」
すごくりとさんに会いたくて一人言ちる
「会いたいな…」
外の空気を吸いたくて一旦外に出る。空はビルの明かりで何も見えないけれどこの空はりとさんと繋がってるって思うと幸せな気分になれる。
「りとさん…」
「こんばんは。高遠さん」
ぼんやり呟いたら声がかかった。ふと声のした方を見ると斜め向かいのお店の男の子。
「楢崎さん。こんばんは」
「今日はお店終りです?」
「ん~…悩み中です。珍しく予約も入ってないので早々に閉めたいなって…」
「あ。高遠さん」
背の低い彼がくいって胸元を引くから前のめりになり倒れないよう思わず彼を抱き締めたようになってしまう
「へ?」
「ゴミ。ついてますよ」
「こんなに暗いのによく見えましたね」
少し気を抜いたら彼に唇を奪われてしまう
ドサッ…音のした方を振り返ると
「りと…さん…」
仕事用の重たそうなバッグを地面に落とした音だった。焦ったようにりとさんは急いでそれを拾う
「え…と…お疲れ様です。近くに来たので寄っちゃいました。お邪魔してすいません。では失礼します」
嫌だ…嫌…行かないで…あんな…あんな余所行きのりとさん初めてみた…
「りとさん!!」
追いかけようとするけれど楢崎さんは体の割には力が強くて離してくれなくて
「いや!行かないで…」
「離してください」
思ったより低く冷たい声が出た…
「俺は貴方が好きです」
本当は気付いてた…彼の気持ち。でも知らない振りをしてたから…
「俺はあの人以外考えられません。すいません。離してください。」
「嫌だ!」
「いい加減にしてください!」
大きな声に驚いたのかそっと手を離してくれる。
「お気持ちはうれしいです。でも俺は貴方の気持ちには答えられない。さようなら」
店の鍵を閉めて看板を下げて急いで帰宅した…
でもそこにはりとさんの姿は見えなかった…
ともだちにシェアしよう!