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「待ってたって…」
一体何の事だかわけがわからず戸惑う紗波をよそに、少年は紗波の手を取ったままじっと見上げてきた。
紗波の体温が高いせいなのかわからないが、少年の手は真冬のかじかんだ手のように冷たく感じる。
そのまま紗波の手を導くように胸元に持っていくと、そこで結ばれた柔らかな帯に指を引っ掻けられた。
紗波の切れ長の瞳が瞠目し、見開かれる。
「…ちょっ、ちょっと待て!」
慌てて制止するも、襦袢の前で結ばれていた帯がしゅるりとほどかれた。
柔らかな帯はあっという間に結び目をほどけさせ、少年の足下にハラリと落ちる。
その下は一糸纏わぬ姿だった。
何なんだ…これは…
酔いなんかとうに醒めているはずなのに目の前の出来事に思考が追いつかない。
少年は誘うような流し目を向けて、紗波の手を襦袢の襟から忍ばせた。
透き通るような白い肌が、ぼんやりとした橙色の灯りの下で浮き彫りになる。
華奢な体躯はまだ発達途中の幼さを残しつつも、しなやかでしっとりとした色気を漂わせていた。
見てはいけない。
そう思いつつも、その肢体の美しさに目が奪われてしまう。
少年はほくそ笑みを浮かべると、紗波の手をしっとりとした肌に触れさせ瞳を伏せた。
好きにしていい。
それは明らかな劣情への誘いだった。
「な……んで…こんな……お前…」
初対面でしかもまだ互いの名前さえ知らないのに、こんな年端もいかない少年から誘われるなんて常識では考えられないような状況に頭がパニックを起こしている。
酒のせいで変な夢を見ているのかもしれない。
むしろそうであってほしい。
先月末に三十路を迎えたばかりだというのに、まだ二十歳にもなっていないような子ども、ましてや男に心は揺り動かされ、今まで感じたことのないような劣情に支配されそうになっている。
今すぐ押し倒して滑らかな肌を思う存分味わい尽くしたい。
泣くほど辱しめてぐちゃぐちゃになる姿を見てみたい。
そんな嗜虐欲が紗波の理性をゆっくりと蝕んでいく。
いけない。
これ以上は!
紗波はなけなしの理性を振り絞り、少年の肌に触れていた手を引いた。
紗波の行動に少年は弾かれたような表情になる。
「何か…お気に召さなかったですか?」
すぐに不安げな表情に変わり、紗波を見上げた。
その顔は先程まで紗波を誘っていた少年とは思えないほどあどけない年相応の顔になっていた。
「………帰る」
紗波がそう言うと、少年はますます顔を昏くさせる。
胸のどこかがツキンと痛み、何ともいえない罪悪感が生まれた。
紗波は脱ぎ捨てたシャツもそのままに逃げるように部屋を飛び出したのだった。
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