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第5話
「和菓子ってええねぇ、特にこの紫のやつうまい!」
「キオ。それ、あんこって言うんやで。」
「ああ、あのつぶあんこしあんってやつかぁ」
アハ~と笑いながら左手で半分こにしたどら焼きを食べて、右手のスプーンで白玉あんみつを掬っとるキオに俺も笑けてくる。
そんな人、初めて見たわ。
「兄ちゃん、足りる? もっと食べた方がええよ?」
甘酒と半分このどら焼きだけの俺を見て心配そうな顔をするキオ。
「大丈夫や。俺はキオの食べっぷりを見ているので腹いっぱいやねん」
ほんまに、普段の倍は食べてもうた。
そう思うて、ほんまのことを言うただけやのに、キオはポッと頬を赤らめて固まってしもうた。
「あんみつのあんこ、食べてまうよ?」
そう言うて白玉あんみつの器に手を伸ばすと、キオはハッとして器を引き寄せた。
「これはアカンよ! どら焼きのあんこで我慢してや!!」
そう言うてガツガツと食べる姿にクスクスと笑い、どら焼きをかじって甘酒で流し込んだ。
「甘酒、飲んでみぃひん?」
「飲んで、今日のこと忘れたらイヤやからいらん」
そう言うて、キオはブンブンと横に頭を振った。
むっちゃかわいい言い訳に思わずニヤける。
「兄ちゃん、むっちゃうれしい……優しい子やなぁ、キオは」
俺がそう言うと、えへへと言うてニコッと可愛らしく笑うた。
最初会った時とは違う素直でどこか子どもっぽいキオの姿に安心する。
これであとはいつも通り……なはずなのに、胸に一瞬、針が刺さったようで痛くなった。
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