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第6話
お金を払ってさっきのお店を出る。
次の目的地まで手を繋ぎながら、俺は車道側を歩き、なんてことない話をする。
ご飯ごちそうさまでした、とか好きなものお腹いっぱい食べたの初めてで夢やった、とかラーメンの汁の味が……なんて食べた感想とか、ほとんどさっきの食事の話。
いつもの客なら過去の話とか愚痴とかをぶち撒けていくんやけど、キオはそんな話は一切せえへん。
まぁ、どんな話でも仕事やから聞くからええよ……仕事やから。
ふと横を見ると、空を見たり周りをキョロキョロしたり、まるで子どものようやった。
「……キオ」
「ん? 何、兄ちゃん」
名前を呼ぶと、あどけない表情で俺を見てくれるから何度も繰り返す……なんとなくフラッといなくなりそうで怖いんや。
「もし、生まれ変わったらどうする?」
ありきたりな質問なのに、う~ん、そうやなぁって唇に人差し指を当てて考えるキオ。
「普通の家に生まれて、普通に育って……色んな人にこれでもかってくらい愛されたいかなぁ」
そう言いながら目を閉じて、んふふと笑うキオ。
もうすぐ消える命……採った血も数ヶ月で飲んでまうから、跡形もなくなる。
今日の記憶なんて、吹っ飛んでいく塵と一緒やし。
生まれ変わるなんてない……あるのは無だけ。
でも、叶えばええなぁと思う今日の俺はおかしい。
あの甘酒、アルコール度数高かったんかな。
「兄ちゃんはどうするん?」
まさか、俺に聞いてくるとは思ってもなくて、うえっ!? と声を上げてもうた。
「人間になりたいって思うもんなんかなぁって、聞いてみたかってん」
どうなん? と首をかしげてくるキオがかわいくて、答えてやりたくなった。
「俺は今と同じでええかな。この仕事も嫌いやないし……この身も結構ええもんやで」
そう言うて口角を上げると、そうなんやぁって言うて、手をブンブンと振った。
なんでやろ……もう次の目的地に着かんでええと思うのは。
でも、しんどないように近くにすれば良かったかななんて思うのは。
このぬくい手が心地ええのは……なんでやろ。
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