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第4話
この時期に、何時もに増して生徒が三階へ近付かない理由。それは___
「っ、はぁ、はぁ…何で、こんな!」
亜澄を探して張り紙を頼りにやって来たこの頭の可笑しい企画会場。
トップの周りを固める面子を選考するにあたり、毎年行われるのが三階範囲のみでのサバイバル潰し合いらしい。どうも、俺も見事に巻き込まれ頬に一発食らった状態で倒れ伏す同級生を上から揺れる瞳で見下ろしていた。
「来るんじゃなかったクソ…。」
息を整え一番手近な教室の戸を開くと、教卓に腰を預け呻きに塗れた部屋で一人目を開いた男。
見慣れたワインレッドに思わず眉間を押さえ込む。
「あ。大田くん、遅かったじゃない。」
「亜澄…。」
傷一つ負っていない姿に少しばかり驚愕したが、何時もと変わらない様子で声を掛けられた事に張り詰めた息が緩まる。
きっちりと着こなしていたあのシャツは少しだけ乱れていて、そこから中に黒のレース素材の服を着込んでいたのだと今知った。
「大田くんさ、やっぱり強いんじゃん。大田って名前聞いた事あるし、誰かに少しだけ似てるなあって思ってたんだけど…
どうりで。」
「っ!!」
教卓から降り、一歩一歩着実に異様な雰囲気を纏い近づいて来る亜澄に違和感を覚えていた刹那、腹部に拳の影が降り掛かるその様子が捉えられる。
しかし、捉えたものの油断から避ける事は叶わず。
「〜ッぐ、」
「あは、そんな顔するんだ、大田くん。」
よろめいた所に足払いをまともに喰らいその場に組み敷かれる。俺の上に跨る亜澄のいつかの爛々としたあの目。ひゅ、ひゅ、と不安定な呼吸音。最後に見たのは亜澄が振りかぶった細く白い腕だった。
その後、目を覚ましたのは約一時間後。
何故か三年生が周りにいる中。
目が覚めて始めに見たのは、髪を乱しあの赤いシャツが腕までずり下がり口や鼻から血を流した亜澄と、そんな亜澄を一方的に蹂躙する今時古めかしい丸眼鏡の男だった。
「亜澄…」
「ダチ?運悪いな。よりによってまことに当たんだもんな。」
隣でそう言ったのはあのマスクにバンドの先輩。頬杖をつきその冷めた目で正面の事を見つめている。
つられるように俺もまたその事に目を向ける。
「一年、亜澄希チャン。希チャン、希チャン強い〜!けど_____
__未だ未だ殻ァ被った産毛まみれのヒヨコチャン。」
武道の試合とかで目にする技をかけられた亜澄の軽い身体は床に打ち付けられ噎せ込む様子は痛たましい。その亜澄の身体の両横に足を付け立ったまま身体を屈め見下ろすまことさん。
亜澄の内着の胸倉を掴み空いた手で薄い首に手を掛けた。
「っか、はッ…キッツ…!」
丸眼鏡の手首に手を掛け抵抗の様子を見せるもののその腕はビクともせず、亜澄の顔が苦痛に歪み始めると同時に教室の戸が開く。
「バカまこと!やり過ぎだろうが。」
「あちゃあ〜、怒られちった。ゴメンね、希チャン。」
そこで、漸く事は終わったのだった。
改めて三年生三人が自己紹介を始める。対して俺たち一年はこの教室に二人。
頭は南元春というらしい。如何にも目立つ格好で、そしてここのトップなのだからやはり馬鹿そうな顔。
先ほどのマスクバンド野郎は乙実優助というらしい。ぱっと見まともそうで、トップのお守り役なのだろうか。
そして日輪まこと。さっきのやり取りを見ても一番まともではないだろう。何故か笑顔でこちらを舐めるように見て来る。
ざっと互いに終わったところで南先輩がまんねんの笑みでこちらに手を差し出す。
首を傾げていれば無理に手を取られ、
「お前らはこれで、晴れて馬鹿校のトップの仲間入りだ!」
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